1-6-2
僕が思いついた作戦は、どこかのアニメでやっていた作戦だ。
ショッピングセンターの食料品売り場に着いた僕は赤い調味料を大量に購入する。
そして手早く空間から出てみんなのもとに戻る。
何もない場所に空間を作り出し入ったり出たりするのは、やはり驚きでいっぱいになる様子だった。
全員が口を開けて呆けている。
だけど僕はそれを無視していう。
「おまたせ。物を買ってきたよ」と言いながら実物を見せる。
「なに?この赤い長細いものは?食べ物なの?」
「これは唐辛子っていうんだ。
そのまま食べると辛いから普通は辛みが欲しい料理に少量入れて使う調味料なんだ。刺激物であるため、粉々にしたものを少量でも目や鼻から摂取してしまうと激痛が奔る。今回の作戦っていうのは、これをここで細かく砕いて各自で持っておく。そして敵に近づいたら敵の目や鼻に向けてこれを投げるんだ」
「そういうことね。その激痛で相手の動きを鈍らせている間に殺っちゃおうって話ね?」
僕は頷く。
「それなら話は早いわ。皆素早くこれを粉々にして各自で持ちましょう。」
その言葉を合図として、僕も含めてみんな一斉に粉々にし始める。
作業中に少し吸い込んだりすることもあり、たまにむせ込み苦しくなることもあった。
でもおかげでこれの効果に信憑性が生まれた。
そして各自で唐辛子の粉をもって、再度接近する。
「みんな、一応言っておくけどこの作戦は時間が命だ。痛みのあまりに動きが鈍るのはあくまでも一時的な物。時間が経てば回復して敵が襲い掛かってくることになる。敵が回復するよりも前に早く倒す必要がある」
皆が頷く。
「正直僕らがこんな大きな危険を背負って戦う必要はないのかもしれない。ギルドに報告すればいいだけなのかもしれない。でも、ここで見逃したら場合によっては何も知らないでこの近くを通った人がこいつらに殺されてしまうかもしれない。
幸いにして僕たちには、奴らをこの人数で倒す手段がある。ならば仮に全部倒しきれなくても数をある程度減らして奥だけでも危険は減らしておける。街を守る冒険者として誇りに思う行動をとろう・・・」
皆いい感じに表情が引き締まってる。
「それでなんだけど、ルーシーに聞きたい。君の魔法で疑似的な竜巻は起こせるかな?別に敵を上に巻き上げたり、枝だとかで敵を突きさしたりする威力は必要ない。あくまでも砂埃を巻き上げる程度のものでいいから」
と伝えると不思議そうな顔をしながら
「できるよ。それをやればいいの?」と聞いてくる。
その質問に僕は答えを返す。
「うん。ただし特別に用意した大量の唐辛子の粉を奴らの中心付近に投げ入れてからね?」
「レンジ?気づいてないかもしれないけど、あなた今、結構悪い顔してるわよ?」
あれ・・・そんな顔してないつもりなんだけど。
とにかく気を取り直して・・・
「それじゃあルーシー、準備はいい?」
「うん」
僕は勢いよく袋をゴブリンの群れの中心に投げ入れる。
紐で軽く縛ってるだけの袋だ。
竜巻のようなものが生まれればそれだけで紐は解けて中の物がまき散らされるだろう・・・そう、唐辛子の粉が。
「ウィンドストーム!」
魔法の発動と同時につむじ風のようなものが生まれて、中に入っていた唐辛子があたり一帯にまき散らされる。
それを吸い込んでしまったゴブリンは・・・・
それを見ていた僕はこう思った。
地獄絵図だ。
鳥肌が立つほどの悲鳴を上げてのたうち回るゴブリンたち。
その光景を見ていた僕も彼女たちも一時は茫然としていた。
リーダーのアビーが慌てて支持を出す。
「・・・今が好機よ。全員突撃!!!」
そうして僕らは一斉に襲い掛かった。
最早敵は攻撃どころじゃない。
ゆえに僕らは防御は一切考えずに攻撃に出た。
普段は魔法を使用しているルーシーですら、サブウェポンの短剣を取り出して肉弾戦をしている。
結果的に特に戦いらしい戦いは起こることなく、一方的な蹂躙で30体以上いたゴブリンの群れは全て討伐された。
戦い?が終わって静寂が戻り、一通り討伐証明部位を取得し、魔石を拾い終わるとアビーが口を開く。
「レンジ。あなたって意外とえげつないことを考えるのね。味方でよかったと心の底から思ったわ」
彼女らの他のメンバーも口々に同意している。
ミーアも口にする。
「ルーシーは基本短剣を使うときは接近されすぎたときの防御で使うのよ。ルーシーが攻撃で短剣を使うのなんて初めて見たわ」
と言っている。
やはりあれは滅多に起きないことのようだ。
まあ何にしてもこのやり方は集団戦闘においてはかなりの有効打になるようだ。
流石に鼻とか目のない魔物。
例えばスライムとか可能性としてトレントとかはこのやり方は通用しないだろうが、
逆にウルフであれば効果抜群のはずだ。
それならばこのやり方は、きっとスタンピードが起きてしまった場合でも有効だろう。
このやり方ならば少数で多数を相手にすることができる。
仮にスタンピードが起きてしまったときに先遣隊の派遣をして、本隊が大勢を整えるまでの時間稼ぎとしても有効打となりうるだろう。
ならば街に帰った後、ギルドにはこのやり方を報告しよう。
それにどのみちギルドからも聞かれるだろう。
僕らは全体から見れば下から数えたほうが早い位置の冒険者だ。
そんな駆け出し・・・あるいは駆け出しから卒業したばかりのパーティーがどうやって30体を超えるゴブリンの群れを、たったの5人で討伐したのかを聞かれるはずだ。
唐辛子を本格的に栽培し、このやり方を広めれば冒険者の被害は減り、それは間接的にではあるが街の人たちを守ることにもつながる。
そう考えながら僕らは微妙な気持ちで街へと帰還するのであった。
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