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商人としてのスキルまでは話さなかったが、冒険者になりたいと思った理由などに関しては話した。


「そうか。そんなことがあったのか。大変だったな」


ああ、この世界に来てからはじめのうちは何度思ったことか。

『この世界はなんとも残酷で理不尽なのだろうか』と。

でもこの国の人たちは違った。

利益や打算が一切ないわけでは無い。

でもここの人たちは・・・少なくとも僕がこの国で出会った人たちは皆優しかった。


「僕は友人たちを救い生きることが目的です。

冒険者として大成することが目的ではないです。

周りの冒険者からは笑われるかもしれませんが、

最初はスライムでしっかりと自分の戦い方を会得しようと考えてます」


トレーンさんは頷いて言った

「それは正解だ。ヒヨッコの奴に限って無理な依頼や戦闘を請け負い死んじまうことは多い。何事も経験だ。

勿論先輩として相談には乗るが、直接的な手助けはしねえ。

それで得たものがあったとしても、それは所詮借り物の力でしかなくて、そいつが本当の意味で得られたものじゃないからな」


その後は登録料として商人ギルドと同じ、小銀貨3枚を支払いギルドカードをもらった。



ギルドカードは手に入った。

次は装備を整えなくてはいけない。

冒険者と一口に言っても、その活動フィールドは多岐にわたる。

街の清掃、ペットの捜索、情報収集、旅の護衛、畑や家屋を守る仕事、魔物や猛獣の討伐、危険地帯の採集や採掘などだ。


基本的に低ランクの冒険者の多くは後ろ盾など存在せず、同時に手持ちの資金が乏しい。

それゆえ、危険度が少なく、同時に依頼達成率が高い仕事を請け負う。

基本的に低ランクの依頼を数でこなし資金集めをして、装備を揃える。

装備を揃えたら魔物や猛獣の討伐を行い、素材になりうる部位は売り払い、達成報酬を得ていくというスタンスだ。

そうして名を上げていくことで有名な冒険者として各国で重宝されたり、あるいは軍の隊長格としてのコースに入るのだ。


尤も後者は自由な雰囲気から規律の厳しい環境へと入るので、基本的になんとなくで冒険者を始めたものは少ない。

ほとんどが養成学校などに入るお金がなかったり、あるいは別の事情により入れない人が、それ以外のコースとして選択するのだ。


僕の場合は幸いにもすでに商人として稼いだ資金がある。

冒険者として必要な武器や防具の類は余程高価なものを選択しない限り初めから資金が底をつくというようなことは無いだろう。


手始めに武具屋へ向かう。

本来であればMPの方が多いため、魔法使いを主眼に置いた冒険者活動を行いたいところではあるが、魔法や攻撃系のスキルを習得していない僕は選択肢として狭まるだろう。

となると基本的には剣や盾を装備して剣士タイプを選び地道に魔物を討伐してステータスを上げるしかない。


武具屋について僕は初心者向けの短刀と盾、各部位の鎧を購入した。

大銀貨1枚ほどの出費にはなったが、たとえスライムといえど負ければ待っているのは死あるのみだ。

冒険者としての経験や戦い方が身についていない今の段階で高性能な装備はいらないが、

お金をケチって死んでしまっては元も子もない。


そして街から一番近い森、その手前にある草原へと向かう。

ここはスライムやリーダースライムが生息するエリアだ。

もう少し奥へ行けばニードルボアやゴブリンがいるとのことだ。

詳しい敵の情報はしらないが、ゴブリンやスライムはラノベとかで出てくるアレだろうし、ニードルボアは角が鋭利にとがったイノシシだろう。

リーダースライムは大きさがどれくらいかは分からないが、スライムの上位個体として考えておけばいいだろう。


と思っているとスライムを1匹発見した。

たかがスライムされどスライム。

基本的には核をつけば直ぐに倒せる相手ではあるが、突進があるし動けなくなった相手を捕食する力をもっている。


ステータスがある以上見た目通りとは限らない。

スピードが遅くてもそこに込められた力がけた違いになっている可能性はある。

まちがっても盾で受け止めて腕を骨折するのは避けたい。

最初のうちは回避に専念し、動きに慣れてきたら攻撃するのがいいだろう。

盾で受け止めるにしても真正面から受け止めるのではなく、力を外へ分散させる形で受け流す方法をとるべきだろう。


このやり方ならばある程度ダメージを軽減できるはずだ。

スライムが僕を獲物と捕らえたのか勢いよく接近してとびかかってくる。

内心ひやひやしながらではあるが、しっかりと見ながら回避してみるとできた。

次は受け止められるかの第一実験だ。


完全に真正面から受け止めるのではなく、敵が突っ込んでくる方向とは少し角度をずらして敵の攻撃を自分の後ろ方向へと逃がすやり方だ。

左手に持った盾に角度を45°くらい着けて受け流してみる。

僕のステータス自体が弱いせいなのかは知らないが、意外と腕がビリビリとくる強さだった。


だとすると真正面から受け取めるのは危険ということになる。

ならばどうする。

謙遜ではないが、僕はスポーツの類はやっていない。

相手の攻撃を回避してカウンターを決めようにもしっかりと充てることができるとは思えない。


ならばまずは盾で左後ろに受け流す形をとりながら、体を左回転させる心構えをしておく。

受け流すと同時に体を左回転しながら右手に持った短刀でスライムを指す形で攻撃する。

これならリスクは少ないはずだ。


スライムが突進をしてきたタイミングを見計らってあらかじめ考えていた動作をして剣が刺さる。

幸か不幸かはわからないが、そのまま核に突き刺さりスライムを倒した。

スライムからは魔石と呼ばれるものしか取れなかった。


この魔石は魔の力の結晶であり、魔道具の原動力だ。

冒険者ギルドで聞いた限りではMP回復ポーションの材料にも使われているらしいが、スライムの魔石では小さいうえに密度も薄い。

それゆえ初級のMPポーションを作るにしても1本あたりに100個近くスライムの魔石を入れないといけないらしい。


しかし元々もステータスの低い僕のことだ。

スライム100匹どころか1000匹くらいは倒してステータスを上げないと次のニードルボアやゴブリンの討伐に必要な力は得られないだろう。




先行きの長い作業にため息をつきながら僕は次のスライムを探しに行った。

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