1-4-α

SIDE:エコラック

あの不思議な少年が初めてギルドに来てから約1か月が経とうとしている。

その間にあの少年には何度も驚かされた。


ただですら品質の高い胡椒と塩を入手できるだけでなく、

庶民向けの塩も大量に確保してくれるのだというのだから。

自分の利益を出すことは商人にとって大切だ。

だがそれと同じくらい地域に貢献するのも大切なことだ。


あの少年はそれを弁えている。

俺はそう思い油断していた。

あの少年はちぐはぐだ。

妙なところで知識があると思えば、別の方面では素人もいいところだ。

漁師にとってゴミでしかないはずの海藻の活用方法をしっていると思えば、

品質の高い塩や砂糖の価値に関しては知らなかった様子だった。


だから忘れていたのだ。

あくまでもこの少年は大人の知識を持ってはいるが、

大人の常識を弁えていないことを。


あの後、少年は海藻を料理に使う方法を提案してきた。

提案自体は画期的だ。

何せそれまでゴミとされていたものを使えば味に深みが出るし

なにより塩の消費量を少し抑えられる。

食文化の向上は大切だからな。


しかしギルドで紹介した飲食店で販売を開始したところ大ヒットしたと知ると、

少年は卸し値を倍に引き上げようとした。

確かに少年から聞いた限りの仕入れ値と卸し値を考えると

今まで卸してきたものの中では最も利益が出にくい商品だ。

その気持ちはわかる。


だが初めて扱う商品だ。

リスクがあるのは何も少年だけではない。

デニスの方も購入したは良いがロクに売れもせずに赤字の原因となる可能性があった。

当然のことながらデニスは激怒した。


それから少年は自分の過ちに気づいたのかすぐに撤回させてほしいと依頼してきた。

デニスも少年の気持ちを加味したのか、おいおいであれば値上げするのも仕方ないと妥協した。

しかし商人にとっては信用は第一だ。

今回の少年の行動は明らかにその信用を失う行動に他ならない。


厳しいようだが少年が理解しているのか質問させてもらった。

少年は言われて自分自身のミスに気付いたようだった。

それから項垂れながら、次回は貴族向けの塩と胡椒を増量してもってくることを伝えて謝罪し帰っていった。


今回は相手が理解のある大人でよかったと思う。

理解のない相手であれば、今回の件は致命的なダメージになりえたからだ。


今回の件は辺境伯に報告しないで俺の胸にとどめておくとしよう。

それに辺境伯との面会の手筈を整えなくてはいけない。


俺は副マスターに領都に行くことを伝え、早馬で向かった。




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SIDE:ファスペル


あの不思議な少年の報告がきてから1か月弱たった。

その頃になって再びエコラックが早馬で領都にやってきた。

なんでも少年は公爵や辺境伯だけが買うことのできる高品質の砂糖の入手ができるそうだ。

さらに貴族向けの塩や胡椒も増量を考えているそうだ。


それだけにとどまらず本来海のゴミとして煙たがれる海藻の活用方法をしっていたとのことだ。

食事を楽しむものが増えただけでなく、使用する塩の量を減らせるのだとか。

上手くいけば辺境伯の経済が潤う要因になるだろう。


ここまででもお腹いっぱいになりかかっていた私だが、

とどめと言わんばかりの情報がでた。

なんとポーションの材料となる薬草の入手経路まであるようだ。

今は個人で利用することを目的に少量を薬師に依頼して作ってもらっているようだが

私をはじめとする辺境伯からの依頼であれば大量に薬草を入荷することも考えるそうだ。


ポーションの材料は希少だ。森の手前であれば初級ポーションの材料は取れる。

しかし中級や上級となれば必要とする薬草の数が増えるだけでなく、

森の奥の方までいかなくてはいけない。

森は奥へ行けば行くほど魔物や猛獣の危険度も上がる。


だからこそ中級ポーションや上級ポーションはすさまじい高値で取引されるのだ。

しかし辺境伯領を治める私としては無視することはできない。


最近は隣国、アーガスト王国の開戦の動きもあることだしポーションの備蓄は増やしておく必要がある。

そんな時にあの少年は希少な薬草を大量に入手する手段を持っているというのだ。


以前にも私は彼が現れて時代が動き始めたと思った。

しかしそんな私の見立ては甘かったのかもしれない。

まるでこの国に災厄が訪れようとしているのを、女神さまが防ごうとしてあの少年を遣わしたようにも思えてきたのだ。


アイテムボックス自体も希少なスキルだ。

本来ならば少年の出自を詮索したりする行為は、相手が商人であるがゆえに一番嫌われる行為だろう。

しかし恐れている場合ではない。

全てを偶然にして片づけるにはあまりにも出来すぎているのだ。


話はこの国の未来、あるいはこの世界の存続にもつながるかもしれないと思い始めた私は、

当日に屋敷の警備を厳重にする準備を始めた。

そして少年が来たら問わねばならない。

仮にそれで少年の機嫌を損ねることになったとしてもだ。




そうして私は密かに覚悟を決めた

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