1-4-9

「・・・・・・・今度は何の相談だ」

エコラックさんは溜めに溜めて言葉を発した。


なにやら申し訳ない気がする。

「砂糖についてなんですけど・・・」と切り出す。


「お前さんのことだ無暗に詮索はしねえ。けどなちっと短期間でいろいろやりすぎじゃねえのか?

まぁこっちとしては助かるし変な詮索して嫌がられて他の地に速攻移動されてもこまるから、そんな野暮な真似はしねえけどな。」


言われて内心焦った。

確かにここ最近の僕はいろいろことに手を付けすぎている気がする。

これでは否が応でも目につくというものだ。

生きていく術を身に着けたいがゆえに焦っていたのだろうか。

だけどなぜかゆっくりもしてられない気がしたのだ。

何が原因なのかはサッパリわからないのだけど。


「すみません」ととりあえず謝っておく。


現物を持ってきたので確認してほしいこと、必要であれば味見していいことを伝えて

砂糖をテーブルに置く。


いつものようにマジマジと見た後、手を伸ばして微量の砂糖を味見する。


「深い味わいだ。雑味もないし、塩と同様にサラサラしてやがる。

このレベルの砂糖は一般貴族でもあまり買わないな。

このレベルになると公爵と辺境伯くらいでしか買えないだろうな」


うげ・・・マジか。

今回購入したのは上白糖とよばれる種類だ。

ザラザラ感を少し持たせた方がいいならグラニュー糖の方がよかったのかもしれない。

まぁ見せてしまったものは仕方がない。

これで追加の種類の砂糖を見せたら、さらに大事になることだろう。

いずれは見せるにしても今はその時ではない。


「それでこの砂糖は1kgでいくらになりますか?」と本題に入る。


「適正価格としては小金貨1枚ってところだな。」


!?!?!?

小金貨1枚ってことは100万円相当か。

驚きすぎて声が出ない。というか知らず知らずのうちに口が開いていたようだ。


「わかりました。それでお願いします」


歴戦の商人としてやってきたエコラックさんのことだ。

実際には僕が物の価値に気づいてないこと自体、彼は気づいているだろう。

だがそれでも僕を騙すようなことはせず、適正価格(と思われる)で買ってくれている。

ならば引き上げ交渉はするべきではない。


「もうちょっとザラザラしたものであれば大銀貨3枚くらいで買えるんだけどな

普通はザラザラしたのと混じりやすいから選別などをするのさ。

特に品質の良いものだけが少量取れるわけだからその砂糖には高値が付く

1㎏で大銀貨3枚だって一般市民には手が出せねえ代物だけどな」


勉強になるな。

もう少し強い後ろ盾が得られれば一般貴族向けの砂糖と、上級貴族むけの砂糖とで販売してもいいと思う。

だが現在の段階では望まない形での囲いがされてしまうだろう。


そこでふと思った。

今回の品物はおそらくファスペル辺境伯のもとに届く可能性が高い。

ならばこれを機にギルドマスターの仲介を経てファスペル辺境伯に紹介してもらうのも悪くない手なのでは?

どっちみち向こうには存在が気取られるのだ。

ならばこっちから接触を図るのも手だろう。


「エコラックさん、もう一つお願いがあります」


「・・・・・なんだ?」


「ファスペル辺境伯に取り次いでもらうことはできますか?」


エコラックさんは驚くと同時に何かに納得しているような様子だった。


「そりゃあ助かるな。どのみち今回の件は辺境伯には伝えなきゃならん。

そうなるとアイテムボックスを使うことのできる少年についても伝える必要がある。

お前さんの方から辺境伯に挨拶がしたいてんならそうしてほしい」


エコラックさんは肩の荷が下りたかのように言う。

知らず知らずのうちに僕は彼に守られていたようだ。

たぶんエコラックさんとしても今までに辺境伯に伝えなくてはいけない内容もあったのだろう。

だけど僕の商人としての価値を考えて全てを伝えるのは避けていたのだろう。

そしておそらくそれだけのことをしても大した問題にならない間柄だ。

エコラックさんとファスペル辺境伯には固い信頼関係があるのだろう。


「ありがとうございます、お願いします」と伝えた。

とりあえず今回の砂糖は金貨1枚で買い取ってくれるそうだが、これに関しても少し貨幣を下げて大銀貨10枚でお願いした。

また次回も砂糖を持ってきてほしいとのことだ。

価値が価値だ。増量はしないでおこう。


ただし胡椒と貴族向けの塩に関しては増量する予定だということを伝えた。

胡椒3㎏と塩10㎏だ。

本当ならば乾燥昆布も増量するのだが、これはデニスさんとのやり取りになる。

商人ギルドに現段階で伝える必要はないだろう。


今日のところはこの辺で大丈夫だろう。

僕は再度お礼を伝え商人ギルドを後にした。


宿に戻ってから僕は考えた。

後ろ盾になってほしいにしても今のままでは少し弱い。

ならば僕の可能性という名の価値を辺境伯に伝えて

その上で彼にとっての直近での価値を提示する必要がある。


辺境伯と言えば国の国防の要だ。

残念ながら現在の僕では武器や防具の類は仕入れることができない。

しかしポーションならば資金さえあれば納品することができる。

ヒーレニカさんにも迷惑をかけてしまうかもしれないが、彼女としても大口の取引先を作りたい様子でもあった。


ならばこれを機に販路拡大と後ろ盾の確保に踏み込んでみよう。

そう思った僕は宿に戻った。

戻ったところで今日からの支払いを忘れていたので慌てて謝り支払いを行う。


今日はゆっくり休んで明日にはヒーレニカさんに薬草を届ける必要がある。

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