1-1-α
SIDE:天神 勇也
「ねえ天神くん。蓮司君知らないかな?ここ最近姿が見えないんだけど」
「ああ、そうだな」
となんとなく返事を返しながら俺もそう思っていた。
召喚されたその日のうちに兵士に呼ばれてどこかに行ったきり、蓮司は姿を見せない。
どこに行ったのか同級生に聞いても、皆知らないという。
1日2日程度ならば姿が見えないのも仕方ないだろう。
スキルや称号などを入手できた俺たちと違って蓮司は文字化けしていたようで、結果論としてみれば何も手に入れることはできなかったのだから。
蓮司はあまり表情を外に出さない友人だ。
しかし蓮司とて年頃の男だ。
それ相応にプライドもあるだろう。
あくまでも憶測にすぎないが、感情を表に出していなかっただけでショックだったに違いない。
泣いてしまったのかもしれない。
そんな時に同級生の目があるところでは泣きたくとも泣くまいと意地を張るだろう。
しかし3日4日と姿が見えず5日経って、俺は我慢できなくなった。
その間に俺たちは兵士たちから自分たちの能力やスキルをどう使うかを学んでいた。
戦闘訓練も行った。
しかし蓮司の姿が一向に見えないことで不安が不安を呼び、最近の訓練には身が入らなくなっていた。
兵士たちは丁寧に教えてくれている。
あまり、盾突いていると囚えられるかもしれないことは避けたかったが、我慢の限界を突破していた俺は思わず蓮司の行方を兵士に聞いた。
兵士は王女様が呼び出したため案内した。その後は知らないと言っている。
ならばと思い俺は王女様に会いたいことを伝えた。
兵士は結果は約束できないが王女様に取り次いでくれるという。
俺は九条に今自分ができることを伝えてその場では待つことにした。
数日後
俺たちは王女様に会うことができた。
その結果は耳を疑う結果であった。
なんとこの王女は蓮司を王都から追放したのだという。
当然俺は激怒した。
最近、蓮司との付き合いは薄れてきてしまっていたが、それでも幼いころからの友人だ。
その友人を追放されたと言われて黙っていられるはずがない。
思わず王女を怒鳴ると後ろに控えていた兵士たちが憤慨し剣の柄に手を掛けた。
しかし王女から続けて発せられた言葉は信じられないものであった。
王女の言葉によれば
蓮司は能力を得られなかったが故、他の者たちとは違う特別訓練を受けてはどうかと提案したものの断られたそうだ。
また断るだけでなくその場にいた兵士を殺し王女に剣を向けたそうだ。
王女としては謝罪し何とか収めたかったとのことだが、蓮司はそれでも止まらず致し方なく捕縛という方向で動こうとしたが蓮司が逃走。
そのまま自分から王都を出て行ったため、公式発表は『蓮司を王都から追放する』という内容になったそうだ。
その言葉を聞いた俺と九条は茫然と立ち尽くした。
確かに蓮司は幼いころから感情を高ぶらせると一般的な領域では手が付けられないほどに怒り狂うことのあるやつだ。
しかしそれでも自分に近寄るものに対して殴る・蹴るという行動を起こすだけで、人としての倫理観までなくすような奴じゃない。
まして人を殺して、人を脅すような真似をするような悪い奴じゃない。
しかし彼女はこの国の王女だ。
俺たちは蓮司のことをよく知っているが、この国の民たちは蓮司のことを知らないし俺たちのこともよくは知らない。
自分達が慣れ親しんだ王女と、よく知らない俺たち。
どちらを信じるかなど聞くまでもないことだろう。
俺と九条は信じられない気持ちでいっぱいになりながら、どうやって部屋に戻ったのかもわからない状態になりながら、いつのまにか部屋に戻っていた。
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