(3)ユウジとタイチ

さて、ユウジとタイチの事だが、俺が知り得た情報を伝えたい。


まず、ユウジだが、こいつは高等部の2年生だ。

見た目は、はっきりとした目元口元でイケメンの類ではある。


精悍と言えば聞こえはいいが、やや怖い顔である。

ところが、一度笑うと子供のような純粋な笑顔になり、つまるところこれがギャップ萌えなわけだ。


が、何せここは男子校。

残念ながらその魅力は全く使いどころがないわけである。



一方、タイチ。

こっちは、中等部の2年生。


ああ、なぜ学年が分かるのかというと、秘密はネクタイの色。

二人とも黄色なわけで、これが学年を示しているらしい。


でタイチの特徴だが、ちょっと幼さが残る丸顔で優しい感じの男の子。

女子だったら、間違いなくモテモテだっただろう。


性格の方もおとなしくておっとりとしたところがある。

この男だらけの男子校という戦場で、果たして卒業まで生き残れるのか、仔猫の俺でも心配になっちまうほどだ。


で、この男子校はミッションスクールな訳で、寮生は高等部と中等部の生徒がペアになって暮らすのが規則なのだそうだ。

だから、ユウジとタイチはこの部屋で暮らすルームメイトという事なのだ。




さて、そんな二人だが、最近分かったことがある。



どうやら二人は意識し合っているようなのだ。



いや、最初は仲が悪いのかと心配したものだ。

俺をいじっている時は、二人とも楽しそうでキャッキャしている。

しかし、一旦俺が離れると、とたんにお互いぎこちなくなるのだ。




例えば、今は日曜の清々しい昼下がりなわけだが、この二人はすっかり部屋に引きこもっている。

健康的な若者なんだから、そとで飛び跳ねてくればいいのにと思うのだが、二人ひっそりとインドアで過ごす。


ユウジはベッドで横になりながら読書。

タイチは、机に向かって何やら勉強をしている。


二人会話をする風でもなく、自分の事に集中しているのだ。

しかし、お互いそれをやめようとしない。

一緒に同じ空間にいるのがさも目的であるようにだ。


そして、時々、目を合わせてはにっこり微笑みあう。


俺は、背中の毛がぞぞぞっとする。


こいつは、ただの先輩後輩ってのとはわけとは違う。

その先にあるものに違いない。


俺としては別に男同士の友情でも愛情でもどうってことはないのだが、この何とも言えない甘酸っぱい空気は非常に苦手である。

こそばゆくて、こっちが恥ずかしくなる。


で、俺は居心地が悪くなって、外に飛び出そうとするのだが、きまって、どちらかに捕まる。

今日は、タイチに捕まった。


「ミルク。行かないでよ。ね?」

「にゃあ……」


ようは、二人っきりになるのが気まずいのだ。

だから、俺をダシにしようっていうこんたん。

俺はすり抜けようと試みるがたいていは無駄な努力に終わる。


まったく、しょうがない。


タイチは読書をするユウジを覗き見ながら言った。


「お兄様、お茶でもいれましょうか?」


ユウジはふと、小説から目を離し、「ああ、いま大丈夫だ」と答えた。


「そうですか、では欲しくなったら言ってくださいね」


と、タイチは少しがっかりしてポットのお湯を注ぐ。



俺は知っている。

ユウジは、小説にこっそり太一とのツーショット写真を仕込んであり、それを見てはニヤニヤしているのだ。

実物がそこにいるんだから、面と向かってじっくり見ればいいのに、シャイかこいつ。

って、思うのである。



そんなユウジも写真に我慢ができなくなると、さりげなくタイチに話しかけに行く。


「太一。勉強か? 教えてあげようか?」


すると、タイチは急に慌てふためき、


「い、いいえ。今は大丈夫です。お兄様。ありがとうございます」


と、ノートを閉じて丁重に断る。

そして、にっこり微笑みながら言う。


「あとで、宿題をするので、分からないところが有ったら教えてください」

「うん。分かったよ」


ユウジは、少し残念そうに自分のベッドに戻る。



でも俺は知っている。

タイチは、勉強をするフリをして、日記を付けているのだ。

その中身は、今日のお兄様はカッコいいとか、素敵だとか、こんな話をしたとか、こんな事で笑ったとか、そんな日記だ。


こっちが恥ずかしくなる。

実物がそこにいるんだから、普通に会話すればいいだろうに、恥ずかしがり屋にも程がある。

こっちも、ユウジに引けを取らないうぶっぷりなのだ。


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