Overlay The Color In The New World
チクタクケイ
第一幕『透明家族』
《1》透ける腕
『こんにちは。二一四二年、三月十四日の【リアルアフタヌーン】のパーソナリティはバーチャルニュースキャスターのジェーンさんです。ではジェーンさん、本日の見どころの紹介をお願いします』
『はい。今日の見どころは【リアルの声を聞いてみた】のコーナーです。中継を繋げてみましょう。中村さん?』
『はい。ただいま私は渋谷に取材に来ています。本日のテーマは、【貴方を色で表現するとしたら?】です。早速近くの人に声をかけてみましょう』
家族って、どんな色をしているんだろう。
なんとなしにテレビに接続した動画配信プラットフォームでやっている、生配信の街頭インタビュー。それをぼんやり眺めていたら、ふと疑問が沸き上がった。
そんな考えに頭の中で疑問符を付け足している間にも、インタビューを受ける人々は自分の好きな色だったり、思い出に関連する色を思い思いに答え始めている。
『私は黄色かな。昔、家族と行ったテーマパークのマスコットキャラが好きになって、それ以来ずっとグッズ集めているんです』
母も好きなマスコットキャラクターシリーズのメインキャラである、たんぽぽのような色合いのライオン。それがプリントされたポーチをバッグの中から出してエピソードを語った回答者の微笑み。その映像を眺めていても、疑問は解消されるどころか、さらに疑問符が増えていく。だって、ほら。赤の他人だとか、そういう表現があるのだから、きっと家族にだって色を付けられるはず。
「俺たちは何色かな。母さんちは分かりやすいよね。緑色。あの綺麗な壁の家みたいな家族だよ。俺たちは──」
何色かな。という二度目の声は、味気ない真っ白なシーツに横たわる母の姿が視界に入ったことで崩れ落ちた。
「……馬鹿だよね。母さんが起きてた頃より話してる。ちゃんと話してなかったこと、今更後悔してこうやって無意味な話を寝てる母さんに延々としてるなんてさ」
目を閉じ、ただ呼吸を繰り返して眠り続ける母はなにも言わない。自分の声と医療機械の動作音だけが響くのは、いつだって寂しいものだ。
自分も母も、それほど会話が好きでも得意でもないにも関わらず、こうやって虚しい見舞いを続けている。そんな事実につい溜息を吐いた。
は、と何気ない溜息さえ響く個室の広さ。この病室を手配した父の気遣いを少し恨みつつ、母の手を取って挨拶しようとした。
……けれども、手の向こう側が透けて見えたことで、慌てて引っ込め、手の甲がひりつくぐらいに必死に擦った。すると、手は自分がどういう存在なのか思い出してくれたらしく、向こう側の母を遮る。
「俺は此処にちゃんと存在してるよね」
ねぇ。と同意を求めるものの、存在しているのかすぐ忘れるポンコツの手は当たり前だが返事をしないし、それどころか母もただ眠り続けるだけだ。
ここ最近何度したか数え切れない溜息をしながら、母にどうにか『またね』と声をかけてからテレビの電源を切り、病室を出た。
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