体の変化 sideホーエスト
「あー、やっぱりホーエストが一番乗りかー」
懐かしさに思わず目元も口元も緩み始めてた僕の耳に唐突に聞こえてきたのは、兄弟の中で一番明るいギィラード兄上の声。どうやら僕の予想通り、母上たちよりも兄上の方が早く到着したらしい。
「もう始めてるよ」
「みたいだなー。……いや、始めてるどころじゃないんじゃないか? だいぶ二重結界の色、濃くなってるぞ?」
「うん。ちょっといつもより多めに魔力流してみた」
「流してみた、じゃないんだよな。そんな簡単に――」
普段と同じように明るく話しかけてくれてたはずのギィラード兄上が、僕の側に来た瞬間何かに気付いて動きを止める。
普段だったら何事かと思うところなんだろうけど、今の僕には大体予想がつく。だって、さっきから僕が一番感じてたことだから。
「髪の毛? 肌? どれに驚いてるの?」
「いや、どれもこれも……雰囲気から何から、だいぶ違うぞ?」
「そうなの? 僕は自分で見える部分しか分からないや」
それと今も感じられる、普段よりも高い体温だけ。
でもギィラード兄上がこんなに驚くってことは、きっと相当変化してるんだろうね。ちょっと見てみたい気もするな。
「なんだかなー。ホーエストのこの姿を、他の奴らにも見せてやりたい。ウチの第三王子は醜くなんかないんだぞーって」
そっかぁ。醜いって言われないくらいの見た目なのかぁ。
「じゃあ一番最初にリィスに見せたいなぁ」
「お前は本当に、フラッザ宮中伯令嬢一筋だよな」
呆れたような口ぶりだけど、兄上にだけはそんな風に言われる筋合いないと思うんだよなぁ。
だって自分の婚姻式の準備が始まって、その日を誰よりも心待ちにしてるのがギィラード兄上なんだって、僕はよーく知ってるんだからね。
「兄上だって婚約者一筋でしょ?」
婚約者にしか興味がないところ、僕たち兄弟は本当に似てると思う。
「当然だね」
自信満々にそう言いながら隣に並んで、要石に魔力を注ぐために金のリングに両手で触れるギィラード兄上。
僕のバターブロンドとはちょっとだけ違う、後ろで一つに縛っているウェーブ気味のミルキーブロンドの髪が、少しだけ乱れるように舞う。
(あぁ、そっか。手からとはいえ魔力を放出する影響で、髪が浮いてるのか)
だからきっと普段は見えないように隠しているはずの僕の顔も、兄上からはよく見えたんだろうね。それなら驚くのも無理ないかも。
だって普段の僕の顔は、強すぎる魔力の影響で荒れ放題だから。同じように乾燥して荒れてた手が、今ものすごく綺麗になってることを考えると、もはや別人に見えるのかもしれない。
「父上とエルヴォーリン兄上は?」
「特別対策本部という名の父上の執務室に籠り切り。たぶん事態が収まるまでは、二人とも出てこられないんじゃないかな?」
「まぁ、だよね」
そこも予想通り。というかむしろ、そうなって当然。
だから僕が、ここに一人で来ることになったんだもん。
「ちなみに姉上はどうなってるか知ってる?」
「使いは出してるけど、まだ到着してないみたいだったな」
「やっぱりそっかぁ」
迎えの馬車は往復する分時間がかかるし、それも仕方がないよね。姉上のことだから、すでに準備して待ってるんだろうけど。
もしくはもう馬車の中、かな?
「ベローリィがここに到着するまでには、もう少し時間がかかりますよ」
「母上!」
ギィラード兄上と二人で軽く会話を交わしていたら、スミィカを連れた母上が現れて――。
「ギィラードお兄様、そのお隣の方は……。もしや、ホーエストお兄様なのですか!?」
一瞬、物凄く怪訝な顔をされた。やっぱり普段の僕を知ってると、別人に見えるらしい。
可愛い妹に警戒されて、お兄様ちょっと悲しいよ?
とはいえ、スミィカもすでに十五歳。この状況で警戒しつつも、ちゃんと自分で答えに辿り着けるくらいには王族としての落ち着きと判断力を兼ね備えてる。
そこは素直に嬉しいなぁ。
「スミィカは、お兄様の顔を忘れちゃった?」
「いいえ。むしろ普段からそのお姿でしたら、ホーエストお兄様を悪し様に言う貴族たちを黙らせることができるのに、と思ってしまいました」
うん、そっか。そんなに見た目変わってるかー、そっかー。
本当に、今ここに鏡が欲しいんだけど?
あと妙にいい笑顔で言うね、スミィカ。
「そうね。愚か者たちに真実を突きつけて、自らの考えを悔い改めさせるよい機会になりそうだわ」
あれ? なんか母上も便乗してる? 笑顔が怖いんだけど?
というか、そんな風に言われるくらいって。
本当に僕、今どんな姿をしてるんだろう?
「それよりも先に、母上ースミィカー、要石に魔力ー」
確かに最優先事項だけど、僕時々思うんだ。ギィラード兄上って、実は物凄く大物なんじゃないかなって。
いい意味でも、悪い意味でも。
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