守りの要 sideホーエスト

 魔物の襲来というこの緊急事態に、おそらく父上は身動きが取れなくなる。そして僕たち兄弟の一番上、王太子であるエルヴォーリン兄上も今後のため父上について回ることになるだろうから、ここに最初に来れるのは二番目のギィラード兄上か、もしくは母上が妹のスミィカを連れて二人で来るか。

 さて、どっちが早いかな。


「姉上は無理だろうなぁ」


 元第一王女であるベローリィ姉上は、すでに降嫁こうかしているので呼び出すにも時間がかかる。緊急で要請はかかってるんだろうけど、ギィラード兄上や母上たちよりはどう考えても遅くなるはず。

 となると、侍女たちに指示を出してからスミィカと一緒に来ないといけない母上のほうが遅くなるかな?


「義姉上が身重みおもだから、そこだけが心配だけど」


 エルヴォーリン兄上は既に結婚してて子供が一人いるけど、今義姉上は二人目を妊娠中。つまりこんな場所には連れて来られない。

 それなのにこんな状況で、お腹の子に影響がなければいいけど……。


「でもそこは、エルヴォーリン兄上と母上がなんとかするよね」


 義姉上も僕を笑って受け入れてくれる優しい方だし、僕たちにとっては兄上と結婚した時点で家族だから。やっぱりこういう時には少し、心配になるけど。

 でも僕みたいに何の経験もない人間が側にいたって仕方がないし、そこは適材適所ってものがあるから。


 それよりも、今は。


「普段よりも多く魔力を注ぎ込んでいいんだもんね。じゃあもう少し」


 要石かなめいしを吸い取ってもらおう。

 だってさっきから、普段は感じない指先の熱を少しずつ取り戻してきてるから。こういう時だし、もう少しだけ欲張ってもいいよね?


「ちょっとくらい早く二重結界の色が濃くなったところで、誰にも怒られないし」


 なんて自分に言い訳しながら、魔力が減った分体が軽くなっていく感覚に嬉しくなる。心なしか普段はカサついている手も、潤いを取り戻していってるようにも見えるし。

 このままちゃんとの魔力量になったら、この見た目も多少はマシになるのかな?

 他の誰に醜いと言われようが、リィスがこの外見を何とも思わないのなら別にどうでもいいけど。

 でも彼女は僕が痩せていくことを気にしてるみたいだから、せめて心配されないで済むくらいには普通になりたいなぁと思ってる。


「本当に体力、ついてきてるんだけどな」


 この間の夜会の時にリィスとした会話を思い出して、思わず苦笑が漏れちゃうけど。実際最近ではだいぶ動けるようになってきたし、普通に運動もできるようになってきた。

 相変わらず食は細い上に、食べた後すぐ要石に魔力を移さないと具合が悪くなっちゃうんだけどね。


 けど。


「こういう時こそ、僕の出番だし」


 昔、父上や母上、それに兄上たちや姉上にも言われた。有事の際、真っ先に要石の元に駆けつけて魔力を注ぐのは、僕の役目だって。

 僕がこの国の、守りの要なんだって。


「今が、その時でしょ?」


 さっきから目の端でフワフワと舞う髪の艶が、徐々に変化してきているのを見ながら。とりあえず誰かが来るまでは、魔力を注ぐぐらいしかやることがなくて。

 他にできることがないまま暇になった僕は、リィスと出会ったばかりの子供の頃のことを思い出していた。





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