第14話 魔物狩り
あれから俺は幾度となく挑戦しているが、20mを超えることすらできないでいる。
手や足をかける場所はあっても、それを継続的にする体力、筋力ともに足りていないと感じていた。
「はぁ、、、はぁ、、、駄目だぁ!全然登れねぇ!」
「まぁ、今日はこんなもんかのお」
「ガァ!ガァ!」
もうお昼になるということで、木登りの修行の終わりを告げられる。
疲れて大の字で寝転がっていると、ちょうどそこにシルとセレナさんもやってきた。
シルは、倒れ込んでる俺を上から覗くように見てくる。
「やっほ〜ジーク!調子はどう?」
「まずまずだな。シルは?」
「それはもうばっちりよ!」
「さすがだな」
シルはちゃんと簡単なものとはいえ、魔法が使えるようになったみたいで、自慢げに胸を張っている。
「さて、全員揃ったことじゃし、これからのことを話すとするかのう」
全員が揃ったことで、師匠が昼からの修行についての説明を始めた。
「これから3人は、この森にいる二足歩行で白い毛皮のソニックラビットという小型の魔物を狩ってきてもらう。大人しい魔物な上、この辺りには凶暴な魔物はいないから危険はないじゃろう」
昼のからの修行は、ソニックラビットという魔物を狩るというものらしい。
正直、先ほどの木登りよりも楽そうに感じる。
「おじいちゃん、それだけ?」
「ほっほっほっ、それだけじゃよ。じゃが、侮るでないぞ、奴らは攻撃的では無い分、恐ろしくすばしっこいからのう」
「どれくらいですか?」
「そうじゃのう、今のお主らじゃ目で追うのがやっとくらいかのう」
「そんなにですか………」
師匠が言うくらいだから余程素早いのだろう。
それにしても目で追うのがやっとって一体どれだけ素早いというのか。
「3人で協力するも良し、1人1人で頑張るも良しじゃ。狩ってきた獲物が儂らの晩飯になるからよろしく頼むのう」
「ガァ!」
これは修行と夕飯の調達も兼ねてるみたいだ。
ファイが早く食べたいと言わんばかりに元気よく鳴いている。
「おっとそうじゃった、始める前にジークには身体強化を教えておこう」
「本当ですか!?」
なんと狩りの前に師匠が身体強化を教えてくれると言い出した。
てっきり木登りの修行を終えてからだと思っていたので、思わず驚いた。
「ほっほっほ、本当じゃとも。身体強化をすること自体はそんなに難しくもないからすぐできるじゃろうて。もっともそれを維持、高めようとすると大変じゃがのう」
「それでどうすればいいんですか?」
「やり方は簡単じゃ。魔力を身に纏うように身体にめぐらせるのじゃ。最初は少しずつな、一気に魔力を込めると身体が耐えきれんからのう」
「わかりました、やってみます」
師匠に言われた通りに、少しずつ魔力を纏うように身体に巡らせる。
すると、全身から力がみなぎってくる感覚がある。
「ジーク、どんな感じ?」
シルが気になったのか、俺にどんな感じなのかと聞いてきた。
「すごい………体の中から力が湧いてくるみたいだ……」
「よし、魔力はその辺が限界じゃろう。それ以上は今のジークの身体には耐えられないから気をつけるんじゃぞ」
師匠がこれ以上魔力を込めるのは駄目だというので、俺は魔力を込めるをやめる。
確かにこれ以上はまずいと身体が訴えかけてきているように感じる。
「今ジークは、魔力を10使って身体強化をしておる。その状態だと身体能力がいつもの2倍くらいになっているじゃろう。
魔力を10使って、大体60秒くらい持つからお主の魔力量じゃと10分が限界じゃな」
「なるほど、これで消耗していく魔力を俺の魔法で回復させてこの状態を維持していくという訳ですね」
「そうじゃな。だけどあまり無理はしすぎちゃだめじゃぞ?
身体強化してる間も体力を使っているわけじゃから、いつ動けなくなるかわからんからのう。タイミングを見極めて使うことじゃ」
師匠の話では、60秒につき魔力10で身体能力が2倍、何もしなければ、10分で100しか無い俺の魔力は尽きるということらしい。
それを俺の魔法で魔力を回復し、その状態を維持するのが目標となる。
しかし、体力の消耗も激しいので今はまだずっと維持するのは難しい。
「さて、ジークに身体強化も教えたことじゃし、そろそろ始めるとするかのう。儂は家の中で待ってるから、日が暮れる頃には帰ってくるのじゃぞ」
「はい」
「はーい!」
「……分かったわ」
そう言って、師匠は家の中に帰って行った。
残された俺たちは、どうやって狩るのかについて話し合う。
「俺はやっぱり協力した方がいいと思うんだけど、どうかな?」
「私は賛成!」
俺の提案にシルは賛成してくれる。
「私は遠慮させてもらうわ」
そう言ってセレナさんは立ち去ろうとする。
「ちょっと待って!セレナさん!」
「………なに?」
「せっかくだし、仲良くなるためにも少しだけでも一緒にどうかな?」
「貴方となんて仲良くする気はないから大丈夫よ。………私弱い人は嫌いなの」
「え………」
それだけ言い残して、セレナさんは森の中へと入っていってしまった。
俺の魔力値とスキルの話を聞いてから、セレナさんの態度が厳しくなってしまった。
どうしてだろう?
「ジーク?セレナちゃんに何か悪いことでもしたの?」
「いや、何もしてないはずなんだが…………」
弱い人が嫌いって言ってたけど、確かに俺は強く無いけど、そこまで言われると少しむっとする自分がいる。
「シル、ごめん。やっぱり俺も1人でやっていいか?」
「いいけど、急にどうしたの?」
「あそこまで言われると流石に俺も見返してやりたくなってな」
「ふふっ、ジークらしいね。分かった。じゃあ、頑張ってね!」
「ああ、シルも頑張れよ!」
こうして俺とシルは別々に森へと入っていった。
♢ ♢ ♢
森へ入ってしばらくすると、二足歩行に白い毛皮で長い耳が垂れている小型の魔物を見つける。
これが多分ソニックラビットだろう。
師匠の言っていた特徴と一致している。
幸い、まだこちらには気付いてないようで、夢中で木の実を食べている。
俺は、気づかれないように後ろから近づく。
(今だ…………!)
隙を見て、ソニックラビットに俺は飛びついた。
完全に捕まえたと思い、自分の手の中を見てみるとそこには何もいない。
「!?一体どこに………?」
魔物が見当たらなくて、辺りを見回す。
すると、さっきまで俺が居た場所にそいつはいた。
正直、魔物が移動したのが目で追うことができなかった。
魔物は俺のことなんか意に介してないのか、食事を続けている。
そのことに俺は少しイラついて、身体強化を使う。
身体能力が2倍になった状態で再び魔物に飛び掛かる。
「まじか……!?」
身体強化を使ってもなお、逃げ回る魔物の姿を捉え切ることはできなかった。
それでも諦めずに微かに捉えらる気配を助けに、追いかけ回す。
それを10分ぐらい続けた頃、魔物も疲れてきたのか動きが明らかに遅くなる。
(獲った…!)
捕まえた!そう思った瞬間、足元がぐらついて視界が真っ暗になった。
「……う……そ……だろ………」
♢ ♢ ♢
「………ーク………ジーク!大丈夫!?」
「……ん……?……俺は一体……?」
俺を呼ぶシルの声で目が覚める。
起きた場所は、森ではなく、師匠の家だった。
一体自分がどうなったのかと困惑していると、師匠によって答えを教えられる。
「お主は、身体強化を使いすぎて、魔力を使い果たして気を失ってたんじゃよ」
「そうか………俺は気を失っていたのか………」
「もうっ!心配したんだからね!日が暮れてもジークが戻ってこないから、何かあったんじゃないかって!」
「ごめん、ちょっと夢中になっちゃってさ」
本当に心配してくれていたんだろう。
涙目になりながら訴えてくるシルを宥めながら、今日の結果について尋ねる。
「今日の成果はどうだったんですか?」
「セレナが5匹、シルヴィちゃんが2匹、そしてジークが0匹じゃな」
分かってはいたけど、俺だけ成果無しか………。
散々な結果に打ちのめされていると、セレナさんが追い討ちをかけてくる。
「無様ね。あれだけ戦う力を求めてて、ソニックラビットの1匹も狩れないなんて、もう町に帰った方がいいんじゃないかしら?魔力値だって100しか………」
「セレナよ、その辺にしとかんか」
「…………今日はもう休みます」
俺を罵っていたセレナさんは師匠に止められ、今日は休むと言い、部屋に戻ってしまった。
「セレナちゃん、どうしちゃったのかな……?」
「すまんのう、悪い子ではないんだが、少々事情があってのう。儂に免じて、許してやってはくれんか?」
「大丈夫ですよ。気にしてないと言えば、嘘になるんですけど、セレナさんが言ってたことは正しいので……」
「あの子は物心ついた時から儂としかおらんかったからのう。どうか仲良くしてやってほしい」
師匠にセレナさんと仲良くしてほしいと頼まれた俺とシルは、言われるまでもなく、答えは決まっていた。
「俺は、最初から仲良くするつもりですよ」
「もちろん私も!」
「2人ともありがとのう……」
そうして俺たちは、セレナさんとシルが狩ってきた獲物を食べ、それぞれの部屋に戻った。
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