第2話 これからのこと。ミッ
「……ハッ!」
目が覚めた。
何だか悪い夢を見てた気がしてならない。
そう……俺の鍵垢がバレてTnitterのトレンドに乗っていたり、最近の呟きのリプ欄がニヤニヤで染まっていたりとか、そんな悪い夢を見てたような気がする。
スッ……
ーーー
【田中・エリオット・毒沼】
俺のアクリルキーホルダーが発売!
お前ら買えよー。
どうせ俺にスパチャするために働いてるんだからよー!
♡4529
ーーー↓↓↓『リプライ』
【ハから始まるッカー】
あれー?実はリスナーのこと愛してたオスガキ(笑)さん見てるぅー?
♡1248
ーーー
【エリおっとっと】
無理しないで休めよ…………wwwwwwwww
俺らwのためにw頑張ってるwもんな……(真顔)
♡580
ーーー
【毒の餌食】
嫌われ者から一転してイジられキャラになった今の気持ちをどうぞ。
俺らは草
♡56
ーーー
アッッ……
「……ミッッッッッ!!」
夢じゃなかった。
全然夢じゃなかった。むしろ気絶したせいで事態悪化させただけだった。時は金なり、ってこういうこと言うんだな。いらん金言学んだわ。金だけにな。……笑えねぇ。
「どうしよ……どうしよう……運営さんに絶対怒られる……。最悪契約解除……⁉ これはマズイ……!!」
何とか事態の沈静化を図らねば、俺の収入源が消えるし、俺を応援してくれている稀有な人たちを裏切ることになる。
Vtuberとしてそれだけは許せない。
あくまで俺の登録者数は、俺の過激な発言や毒舌を楽しみにしてくれているリスナーがほとんどなはず。
素がバレる。
Vtuber界隈では、一種のイベントのようなものでもあるが、好転する場合と引退に追い込まれる場合との両極端の結果が待ち受けている。
俺の場合は、毒舌というアイデンティティを失うことになるわけで。
クビも全然ある。
ヤバい。ヤバすぎてヤシの実になる(混乱)。
「運営の対応はまだなはず。俺が今何とかすれば事態は変わるに違いない! 知らんけど!」
というか、Tnitterで書かれていたような良い人、なんかでは一切ない。
だって、いくら本心じゃない、って言ったってそれを表に出した以上、発言の責任を取らなければいけない。
それを『実はそんなこと思ってなかったんだ』、なんて言葉は、無責任で虫が良すぎる話だ。
自分のケツは自分で拭く。
俺ならきっとできる……!!
この状況を打開してオスガキに戻ることが……!!
「まずはTnitterで呟く。焦ってると思われないように上手く言い訳するしかないな」
……ここはキャラを守ってと。
ーーー
【田中・エリオット・毒沼】
なんか寝てたらトレンド入ってる。
騙されちゃってるみたいだけど、全部今日のための布石だからさぁー。ぷぷぷ、世界チョロいわー!
ーーー
これでヨシ、と。
「俺のキャラ的にこれは受け入れられるはず! リスナーが適当にキレて何とかしてくれるだろ」
他人任せではあるけど、リスナーのことは信用してる。
上手く配信を盛り上げてくれて、何だかんだスパチャを飛ばしてくれる俺のリスナーには感謝しかない。
最早俺という存在自体がリスナーで成り立ってるようなものだ。
とか何とか考えていたら、いつの間にかかなりの数のリプライが飛んできた。
「頼むぞリスナー……!!」
ーーー
【もぐもぐ山田】
布石に1万呟きは草
それはそれで最早愛だろ
♡46
ーーー
【いにしえのオタク】
苦し紛れの言い訳かわいい
どう足掻いても無理だから諦めろよw
♡66
ーーー
【マジラン】
あのアカウントを自分のじゃない、って否定しない時点でもう負け確定なんだよなぁw
♡25
ーーー
【ただの魔人】
世界チョロいわー(震え声)
ーーー
「なんでだよ……ッッ!!!?」
別の意味でリスナーの信頼度が下がった。
何だかんだ罵倒して毒舌系Vtuberに舵を戻すのがリスナーじゃないのか……!?
いや、それを俺がリスナーに求めるのは違うか。
「ど、どうにかできないものか」
ここまで事が大きくなったら、軌道修正も一苦労だ。
今や過去の切り抜きから、謎の伏線回収だ! 的な話題の盛り上がりも見せているし、生半可な言葉や行動では元のスタンスに戻ることは不可能に近い。
そもそも俺はまた毒舌系Vtuberに戻りたいのか……?
素を出して楽しく配信することはできないのか……?
「今までの悪業がなぁ……」
仕方ない。
マネージャーに連絡して、何とかこのまま元の毒舌系Vtuberとして過ごすことができるか聞いてみるか。
……怒ってるだろうなぁ。
☆☆☆
「え、全然キャラ変してもらって構いませんよ? というか、こういうキャラで、とお願いはしましたが、基本は演者さんの裁量にお任せしていたので強制ではないんです。……むしろ、あそこまで思い悩んでいたようで申し訳ないです。これからはじゃんじゃん素を出して行きましょう! 今なら儲k……じゃなくて、もっと人気が出ますよ!」
「ミッ……」
表面上はこちらを慮るような口調のマネージャーであったが、その声音からは明らかにお金の臭いがした。
……大人って怖い。
ただ、ニュアンス的に毒舌キャラを貫かなくて良いのは本当っぽいな。
……俺の半年なんなん?
電話を切って、俺は椅子に持たれかかる。
何だかやるせないというか。こんな形で人気になるのは不本意も良いとこだ。
ここで素で配信したところで人気になる保障はないし、むしろ、これまで応援してくれたファンを裏切ることになる。
「よしっ! 俺は毒舌キャラを貫くぞ!!!」
☆☆☆
「え、田中さん悪業とか何言ってんだろう……。炎上しないようにリスナーを煽ることの難しさを知らないんですかね……。それに何だかんだ優しい性格のボロが出てたから人気なのに。アンチも配信見てない人が勝手に決めつけて罵倒してるだけですし」
マネージャーは、田中の電話を切った後に、そんなことを呟いていた。
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