第21話
良く晴れた青空の下、城内の一角にある庭園では交流会というガーデンパーティの準備が着々と進められていた。
朝も早くからシェフ達は料理の下拵えに腕をを振るい、メイド達はテーブルセッティングに忙しい。
「デボラ、これと同じ箱が倉庫にあるから、もう二箱持ってきて。置き場所はC-8にあるわ」
保温魔法のかかった敷具が足りなそうで、ヘラはデボラに追加を頼んだ。どうせ少ししか食べないだろうに、直前になって料理の品数が増えたらしい。追加のテーブルに合わせて、保温の敷具を取ってくるよう頼んだ。
小走りに向かうデボラを視界の隅で捉えて、植え込みの目立たない所へ幻影の魔道具を慎重に設置していく。手はキビキビ動かして、次々に予定の魔道具を起動させる。
全く、当日になって品数増やしてんじゃないわよ。何の為の申請書で予定表だっつーの。
そもそも、料理なんて素材集める必要があるんだから、品数増やすんなら前もって分かってる筈でしょーが。こっちにもちゃんと知らせなさいよね。報告・連絡・相談! ったく、どこのどいつよ。
しゃがみこんだまま内心で毒づくヘラの前に、真っ白のエプロンがはためいた。
驚いて仰ぎ見上げると、見慣れたくも無いツンツン頭がにぃっと立っていた。
「よ。おつかれさん」
軽薄な笑みを浮かべるラクスに、ヘラは苛つきながらも笑顔で立ち上がる。曲がりなりにも、ここは職場である。
「あら、今日は昼食会の準備で料理場の方々はお忙しいでしょうに、お暇なんですかね? あ、下っぱは下拵えだけでしょうから、もうやる事ないんですか?」
「えー、随分じゃん。俺も今回出す内の一皿は仕上げまでやったんだけどな。
立食形式だし、残った分は俺らで食って良いみたいだし、俺が作ったのどれか当ててみ? 美味いからさ」
にぃっと自信満々で料理の事を語るラクスは、いつもと違って少年のような笑顔で笑ってみせる。
意外な一面にヘラは面食らってしまい、それ以上に毒づく事はしなかった。
「あ、そう。ま、美味しいものなら喜んで食べさせて頂きますけどね。
べつに、あんたの料理が食べたいってんじゃないわよ。どれがあんたのかなんてわっかんないもん。
こっちはまだ設置するもの多くて忙しいんだから、もう行くわ」
若干早口でまくし立てると、ヘラはさっさと歩き出す。頭の後ろに腕を組んで、ヘラの後をついてくるラクス。
「ちょっと。ついてこないでよ」
「べっつにぃ。俺もこっちに用があるだけ」
悪びれもせずに言いのけるラクスに、ヘラは無視してずんずん歩く。
会場の入り口付近まで来たところで、デボラが数人の少女達に囲まれているのが目に入った。
「お? あのコじゃん。なんか絡まれてんね」
「ったく、なんなのよ。デボラってば、まるで蜜に寄ってくる蜂みたいに問題を引き付けるわね」
刺々しい言葉とは裏腹に、ヘラから頼まれた箱を大事に守るようにして抱えたデボラへ、ヘラは真っ直ぐ向かっていった。
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