第15話
ツンツン頭を揺らして、ラクスは休日の大通りで一人ぶらぶらしていた。
休日の週課となっている食材巡りも終えたし、気ままに昼前の大通りで露店を覗き歩く。
ラクスの実家はそれなりに繁盛している食事処だ。おかげで、修行と称して王城へコック見習いとして押し込められてしまった。
あんのクソ親父。
料理の腕磨くのに最高の場所を見つけたとかぬかして、試験場に何も言わず連れて行きやがって。
こちとら料理となると手ぇ抜けねぇって分かっててやりやがった。クソが。
内心毒づきながらも、今の職場はそれなりに気に入っている。
厳しい分、働く者達の質が高い。雑用一つにしても、いかに効率よく美味しく美しくなるようにするか、皆常に考えている。そこがいい。
チャラついて見せているのは、恥ずかしいから。
真剣にやってるだなんて、必死だなんてカッコ悪い真似を人に見せられるかと思っている。別に全然頑張ってなんかないと装って。ホントは人の見てない所でこそ、努力をした。
今日もアレコレ使えそうな食材は無いか、新しい味に出会えないかとリサーチして帰ろうかという時に、一人の少女が目に入った。
大通りで地図を片手に立ち尽くすのは、小柄で茶色いクセっ毛をひとまとめにした少女。大きな眼鏡を地図に付き合わせるようにして固まっている。
一見あか抜けない田舎者にも見えるが、その姿勢の良さに違和感を覚えた。繊細な味覚の持ち主であるラクスは、意外と細かいところにも目が行く奴なのである。
王城で見かける貴族連中みたいな(とはいえラクスが見かけるのはせいぜい下位のだが)品ある振る舞いが滲み出ていた。
地図を見てやろうかと声をかけたが、思いっきり警戒されてしまった。
しかし話せば話すほど、明らかに平民ではない口調と仕草が気になる。
別に治安が悪い訳ではないが、それでもこんな娘一人迷子でうろついてちゃあ、どんなトラブルにひっかかるか分からない。
「いやいや、そんな迷ってる感じ丸出しじゃあ、悪い奴にひっかかるっつーの。俺で手を打っときなよ」
そう、後ずさる少女に笑顔で話しかけて、荷物を持ってやろうと腕を伸ばした。その時、ラクスの後ろから威勢の良い声が響いた。
「ちょっと。嫌がってんのに、ダサい真似は止めたら?」
振り返ると、そこにいたのは動きやすそうでシンプルな、それでいてさり気なくシャレっ気のある恰好をした女性と、少し遅れて後に続いてくるのは如何にもお高そうなイイ女。
ラクスに声をかけたらしい睨み付けて前に立つ女性は見覚えがあった。
そうだ、ついこの間ぶつかった子じゃん。
城ではおとなしそうに見えたけど、なんだ。こっちのが断然イイじゃねぇの。うん。イイじゃん。
思わず口の橋がニィっと上がってしまうラクスに、目前の女神は頬を引き攣らせてシラを切ろうとする。
が、折角のチャンスを逃す気は無い。
「や、偶然だよな」
満面の笑顔で、手を振ってみせた。
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