第14話
満腹のヘレニーアとリルレィルが店を出ると、少し先の通りで何やら揉め事が起きていた。
休日の大通りは人が多く賑わっている、ナンパも多い。
どうやら、一人の少女がナンパされて困っている様子だ。小柄で地味なワンピース姿の少女は、チャラついた男に馴れ馴れしく纏わりつかれていた。
「あのっ! ですから、お断りしますと何度も申し上げていますっ」
「まーまー、そう言わずにさぁ、珍しいね? この辺で君みたいな子あんま見かけないのにさ、道にでも迷ったんじゃないの?
ほら、荷物だってあるみたいだし、俺が道案内してやるって。遠慮すんなって」
「いえっ、本当に結構です。失礼します」
「いやいや、そんな迷ってるって感じ丸出しじゃあ、悪い奴にひっかかるっつーの。俺で手を打っときなよ」
そう逃げようとする少女の腕を男が掴もうとした時、あたしの足は、そのツンツン頭の後ろへと動いていた。
「ちょっと。嫌がってんのに、ダサい真似は止めたら?」
そう往来で気の強い地声を張り上げた。
城で働いている時のヘラは、アーク様相手でなくてもそれなりに猫を被っていた。職場なので当然と言えば当然だが、性分というのは簡単に変えられない。そして、そんな自分が結構好きだし、変えるつもりもない。
だって、あたしはあたしだもの。
とはいえ、初めての恋を前に、アーク様の前では普通に話したくても話せなかった。
リルルに相談して身に着けたあの特徴的な話し方やフリをしている時は自分から話しかけられるけれど、素に戻ったらとても恥ずかしくて話せそうになんてない。
矛盾しているとは思いつつ、あれはまるでお芝居みたいだと心の片隅で言い訳をしていた。
本命相手にして素直に話すには、恥ずかしくて自然体でいられない。だからってあんなツクリモノのあたしを好かれてもしょーがない。
だけど、好かれたい。どうしたらいいか分かんない。こんなの知らない。頭ん中でぐるぐる回るのは、いつもなら笑っちゃうような事ばかり。矛盾してるのが分かっていながら、正解が分からない。
でも、そんな浮き足立っちゃってるあたしだって、それが今のあたしなんだから。
矛盾してて何が悪い、カッコ悪くて何が悪い。
だって、今、精一杯生き足掻いてるんだから。
毎日色んな事があって、予習も練習もしてない人生を、今を生きてるんだから。
だから、ちょっとくらい失敗したって最後は絶対笑ってみせるんだ。望んだ通りの未来が待って居なくたって、期待にそっぽ向かれたって、あたしは頑張ったんだって褒めてやるんだ。
それがあたしだから。
そんなヘラに、ツンツン頭を揺らして振り返るのは、つい最近見た顔。
「あぁ? んだよ……あ、お前っ、前に城でぶつかったズブ濡れ巨乳っ子じゃん」
「ゲッ……ひ、人違いデス」
なぜなの? 神様。職場の人間とだけはモメたくないのに、日々品行方正に勤労しているあたしにこんな仕打ちをするのですか。
愛しいアークとの運命を感じた日に、下心満々のナンパをしてきたアイツ。見覚えのあるツンツン頭の顔に、幸運の神への恨み言を浮かべるヘラであった。
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