付喪神々の宴

@isorisiru

第1話

登場人物

物見神ものみがみ

真実を透通す閻魔手鏡えんまてかがみの生き写し。普段は商人。

割と商魂逞しく、思った事はバッサリいう性格。

日和見神ひよりみがみ

天照大神あまてらすおおみかみ様の冠飾かんしょく現世うつつよ堕ち。普段は花魁。

最年少にして一番のまとめ役。最年少らしいあどけない一面もある。

火産霊ほむすび

火之迦具土神ひのかぐつちのかみ様の御鱗おうろこの付喪神。普段は火消し。

生粋の江戸っ子で、日和神とよく行動を共にするため神木が深い。

草加神そうかがみ

櫛名田姫クシナダヒメ様の涙から生まれた依り代。普段は薬屋。

婆ちゃんみたいな言葉で喋るが見た目は子供、声も子供。実は年齢的には上から二番目。

路進ろしん

閇知泥神之移氏世へちねのかみのうつしよ、普段は虚無僧。突如江戸を出た自由人。この中では最年長で、かなりガタイなんかもいい。

瓊郎にのろう

月読命つくよみ様の八尺瓊勾玉やさかにのまがたま。普段は落語家兼暗殺者。

売れていない落語家を装って暗殺家業に手を付ける。

硬派と言う訳でも無く、付喪神での集まりの中ではふつうのおっさんである。


年齢

路進>草加神>瓊郎>火産霊=物見神>日和見神


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火「おいおいおい、楼主ろうしゅのばっちゃん、日和の奴ぁいるかい?」

日「あちきはここだよぉ火産霊ほむすび兄。昼間っからちとうるさいでありんす。」

物「うるさくもなりましょうに、路進ろしんじじいが帰ってくるってぇ話ですから。」

日「路爺ろじいが?!もう何年もお江戸に姿がござりんせんが…」

火「風の噂にゃあ、もう関所を通ったって話でさぁ!」

物「火産霊ほむすびの顔の広さはこの辺じゃまず外れやしねぇからなぁ、確実に帰ってきてる。」

火「…皆に知らせてやんな。久々に神物付喪神しんぶつつくもがみ集結でありんす」


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瓊「久しいね草加姐そうかねえさん。やってるかい?」

草「その『姐さん』ってのやめな。傍から見たら子供に敬語を使っとるんじゃぞ」

瓊「悪いなぁ昔から抜けねぇんだこれが。」

草「あんたが来たら此処は休みだよ。闇の神の付喪つくもの前で治療なぞできんのじゃ」

瓊「それで物見から話であるんだが、ヒソヒソ」

草「話の腰をじゃな…って、路進ろしんが帰ってくるとな?!」

瓊「らしいんだこれが。草加姐さんは路兄ろにいの事覚えてるか?」

草「覚えてるも何も…あやつ、力を強くしてくると言うていなくなったんじゃぞ?」

物「我々にとって力は信仰、おおよそ全国を回って治水ちすいでもしてたんでしょう」

草「物見ものみ貴様、入り口の戸は締めとったはずじゃが」

火「草加の婆ちゃんの所は溜まり場みてぇなもんだ、昔から変わんねぇ」

瓊「ぼん二人もいいが、日和ひよりはどうしたおまんら。漢漢おとこおとこしくてたまったもんじゃねぇ」

物「うるさいですよ助平親父すけべおやじ。…日和は仕事があるから直前で落ち合うってぇ話です。」

草「最近の厄雨やくあめも追っ払ってくれてたみたいだし、日和が一番しっかりしてるのじゃ。…路進と違って」

火「そう言ってやんなってぇんだ婆ちゃん。とは、言いてぇが…実際路爺がいなくなってからはべらぼうに大変だったからなぁ」

瓊「待つかのう、姐さん、お茶あるかい?」

物「あっしは冷たいので」

草「…ぐぐ、後で覚えておくのじゃ」


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日「…来ないでありんす」

火「来るときに見なかったんでぃ?」

物「この雨じゃァ傘で誰かわかりゃあせんね、でも…」

火「雨が強くなってるって事ぁ、路爺が来てるってこった。」

草「初代徳川が御国を治めて70年…そのうち20年会ってないんじゃ、あの糞爺くそじじい…!」

路「糞爺でわるかったなぁ、草加そうか。」

瓊「やっと帰って来たかって、ははは何だよそれ!」

火「ん?…!、はっはっは!路爺、それ…!」

日「くっくっ、ずっとその格好で行脚あんんぎゃしてたでありんすか?ふふっ」

路「なんだお前たち、拙者せっしゃ虚無僧こむそうがそんなに似合わぬと申すか」

物「ガタイが異常なんでさぁ、路爺。そんな壁みてぇな虚無僧いねぇ」

草「まぁ、なんだかんだ言って…神物付喪神集結じゃのう」

火「酒でも飲むでぃ!婆ちゃん消毒用の焼酎しょうちゅうあったろい!」

路「いいのう酒。行脚の間はまともな生活しとらんかったからのう」

日「それは顔を見せればそれは解決するでありんす」


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物「そういやぁ瓊兄にのにいの落語はどうなんでさぁ」

瓊「いやぁ、もうからんころんよ!閑古鳥かんこどりも啼き疲れてらぁ。お陰で来るのは裏締うらじめの仕事ばっかり、この刀もおさめ時が分かんねぇってもんだ」

路「拙者と一緒に行けばよかったものを。刀の振るいふるいどきることながら、さびれた集落では癒しがあった方がよい」

日「あちきわぁ…路爺がいなくて…少し寂しかったでありんす…」

火「日和は相変わらずからっきしに弱ぇなぁ。ただまぁ一番泣いてたのは日和の奴なんだぜ路爺。」

草「最年少でお前とついをなす日和に、お江戸の警備はちと厳しかったのう。あとで酷い目合うぞ。」

物「でわでわ出来上がって来ている所で、次へと参りましょう…たわむれ、に」


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草「物見、ちゃぁんと許可は取ってるんじゃろうな?」

日「70年前しこたま怒られたでありんすからねぇ」

物「そこはもう承知の助でありまするよ。付喪神とは言えど依り代の無差別格闘…場所は取っておかないと大変ですからねぇ」

火「とくにあっしと路爺、草加の婆ちゃんはやべぇな!」

瓊「物見の本質は鏡…反射板を組み込んだ結界なんて…よう考えたなぁ…自分たちで打ち消さんと攻撃が延々飛んで来るのがちと難点だが」

路「その方がおもむきがあると言うものだ。後は雷共に目くじら立てられねばよしだ」

草「皆…体はなまって…おらんな。ワシだけじゃ、平穏に暮らしとるのは」

物「それでは…神物付喪神の戯、はじめぃ!」

火「狙いは…」

日「勿論もちろん…」

路「拙者か!」

火「日和にかせつけた罰でぇ路爺!」

日「花魁おいらんはこう見えて嫉妬しっと深いもんでありんす…!」

草「やっとるのぉ」

瓊「やっとるなぁ」

物「そっちでもちゃんとやってくだせぇ、漁夫はナシであります」

草「そうじゃのぉ、いい加減にその姐さん呼び、矯正してやるのじゃ!」

瓊「本職とまともに戦うってのは辛いぜ姐さん!落語の演目にしてやる!題はそうだな…『櫛名田くしなだ月読命つくよみ懐刀ふところがたな』なんてなぁ!」

路「いくら相性の不利とは言えど、そう食って掛かられるとこの路進も辛い所があるが…?!」

火「知ったこっちゃねぇ、日和、突っ込め!後ろは立ち回ってやらぁ!」

日「ちと、借りを作らせてくなんし!路爺と言えど、対人はおろそかにしてたでありんすね」

物「路爺、陥落。残りは四人でありやすが…この結界持つかぁ…?」

瓊「いくら何でも刀で炎や陽光ようこうを断ち切るのはお伽草子おとぎそうしの世界…こりゃあ大変だァ」

草「なんで!ワシに勝った気で!おるのかのう!!…その軽い口、縫い合わせてやりたいのじゃ」

路「相変わらず草加は胆力たんりょくが強いのう」

物「路爺、もう大丈夫なんですかい」

路「なんとかな…普段から異能を使い慣れている火産霊ほむすび瓊郎にのろうは強い。日和も最近力の行使が増えてきている。草加は長年の叡智えいちの賜物、どれがどうなってもおかしくはおかしくはない」

火「だめだぁ、焼き切った先から枝が生えてくる…なあ婆ちゃん!ちょっとしつこすぎやしねぇか?!」

草「婆はねちっこいのが世の定番なのじゃ!相性の不利もお前が精魂せいこん尽き果てるまで待てばええだけじゃ!」

瓊「なあ日和、いくら仕合とはいえお前さんの肌に傷を付けると楼主の婆ちゃんに怒られそうなんだが…」

日「それならさっさと…おこられてくなんし!!」

瓊「ったく、夜の神が天の神を裁けるかってんだくそったれ!」

路「ところで物見よ…明らかに『あれ』は亀裂だと思うんじゃが…拙者の目が狂っとるのかのう」

物「え?…あっやばい割れる」

火「でりゃあああぁぁぁ!!…あり?」

草「馬鹿ッ、江戸城に…!」

路「水路一体すいろいったいの原始を求む、止浪しろう!」

瓊「あっぶねぇ、江戸の中核が溶けちまう所だった…」

日「火産霊ほむすび兄!主手加減というもんを知らんでありんすか?!」

路「兎にも角にも、頭首とうしゅ様には謝りに行かんとな」

物「これにてちゃんちゃん、終幕ってか?…締まらねぇ」

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