ひとこぶらくだよ、さようなら

柚塔睡仙

ひとこぶらくだよ、さようなら

 その世界には、こぶがひとつのらくださんと、こぶがふたつのらくださんがいました。

 こぶがひとつのらくださんは、ひとこぶらくだ。こぶがふたつのらくださんは、ふたこぶらくだと呼ばれていました。

 彼らはそれぞれのよさを認めあい、砂漠の中のオアシスで、のんびり気ままに暮らしていました。

 

 ある日のことです。オアシスに、こぶのない生き物がやってきました。その生き物はふしぎなことに、二本足で立っていて、なおかつ奇妙なかっこうをしていました。特に、尻尾が生えていないところが、大きな違いでした。

 彼らはふところから、ふとい縄を取り出しました。そして、ふたこぶらくださんたちを無理やり捕らえて、そのまま砂漠の向こうへと消えていきました。

 ひとこぶらくださんたちはショックを受けていましたが、それと同時に、じぶんたちが捕まらなかったことに少し安心しました。

 

 数年の月日が経ちました。ひとこぶらくださんたちは、あいもかわらずそのオアシスで、のんびりと暮らしていました。

 そして、太陽と月が青い空に両立する綺麗な昼下がり、ふたたび、あの尻尾なしの生き物たちがやってきたのです。

 しかし、今度は様子が違います。彼らはなんと、ふたこぶらくださんたちの上にまたがって、オアシスへとやってきたのです。

 しかもその数は、前よりも多くなっていました。尻尾なしだけでなく、ふたこぶらくだの数まで増えていたのです。ふたこぶらくださんたちは、諦めた表情をしていました。「乗り物」としての自らの人生を受け入れているようでした。

 ひとこぶらくだたちは震えながらも、こう思いました。ぼくたちにはこぶがひとつしかない。彼らを乗せられる身体じゃない。だから、「乗り物」にはされないはずだ、と。

 

 しかし、現実は無情でした。彼らは、ひとこぶらくださんたちに銃口を向け、迷わず引き金を引きました。

 ひとこぶらくださんたちはバタバタと倒れていき、そのオアシスには、彼らと、ふたこぶらくださんたちが残りました。

 彼らは灌木を集め、そこに火を付けました。鍋を設置し、オアシスの水とスパイスを使って、ラクダ鍋を作り始めました。彼らは歓談をしながら、少し遅めの昼食を楽しみ始めました。


 こうして、ひとこぶらくださんたちは、オアシスからいなくなったのです。

 だから私は、声をあげることができない存在の代わりに、その犠牲を悼み、ただただ祈ろうと思いました。

 

 

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ひとこぶらくだよ、さようなら 柚塔睡仙 @moonmage

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