超短編・「コラーゲン」
夢美瑠瑠
超短編・「コラーゲン」
(これは去年の「コラーゲンの日)にアメブロに投稿したものです)
超短編・『コラーゲン』
おれはアルバイトで牛乳配達をしている大学生なのだが、今度、集配所のスポンサーの「明永乳業」が新しい牛乳を売り出すらしい。
「『コラーゲン牛乳』ですか?斬新?ですねえ」主人の話を聞いておれは少し感心した。
「社運を賭けて売り出しているらしい。今ほら、コラーゲンが肌から浸透するオールインワンジェルとか流行ってるだろ。『飲むコラーゲンがコラーゲンの王道!』っていうスローガンだかコピーだかで天然型のコラーゲン成分をどっさり配合した牛乳を開発したんだそうだ。それで値段は20円高いだけ。ヒアルロン酸だのコラーゲンだの海草由来で原価は安いんだそうだ。特許も出願中で、噂を聞いた消費者の中高年女性がもうたくさん注文しているよ」
「ははあ、面白いですねえ。やっぱり今はアイデアの時代ですねえ」
・・・
毎朝80軒ほど配達するのだが、そのうちに早速「コラーゲン牛乳」を注文している顧客が7軒あった。
何となく顔見知りの奥さんがいるという家もあった。
新聞配達とかをしたことのある人なら分かると思うが、朝が早い家、というのがあって、掃除したり水撒きをしたりしていることがたまにあるのだ。
その「たまたま」の日に当たって、アメショーの猫を抱いた奥さんが門のわきに立ってぼんやり往来を眺めていた。
「おはようございます。よく会いますね。コラーゲンの牛乳来てますよ」
おれは愛想よく言った。早朝に来る爽やかな青年、というイメージを演じたのだ。
「ああ、あれね。待ってたのよ。吸収率が16倍ですって?ナノサイエンスがどうとかって・・・有難い感じしたから買ってみたのよ」
奥さんはしわの多い顔をほころばせた。
なるほど、コラーゲンの製品のCMにサンプルとして出そうなタイプの人である。
「どうぞ。お顔がますます美しくなるといいですね」
おれがそう言うと奥さんはますます笑顔になった。破顔一笑、という感じで、破れ傘、という言葉を連想したが、勿論そんなことは言わない・・・
・・・
一週間後にまたその妙齢の?奥さんに遭遇した。
奥さんの皺が若干薄くなっている気がした。毎日牛乳を飲んでいるのだろうか。
「おはようございます。牛乳、どうですか?」
「すごいのよ。ほら、しわが消えてきたの。プリプリとまでいかないけど艶と張りが出てきて・・・なんだか生きがいが出てきたみたいに牛乳待ってるのよ。明日から二本追加してね」
そうしてまた「破顔」した顔は、そう、「破れた丹後ちりめん」くらいには改善しているのだった。
「よかったですねえ・・・とにかく毎度アリー!」
元気よく言っておれは配達に戻った。
・・・
ビタミンCはコラーゲンのもとだと聞くが、そうするとビタミンCが肌にいいというのもつまりはコラーゲンの話なのか?
だが、漂白、脱色の効果というかメラニン色素に対抗する効果もあるのかと思う。
コラーゲンは「膠(にかわ)」のようなもの、という印象だが、例えばスッポンとかに多いと言って、食物から摂取してもそれは直接には美肌とかに効能があるわけではない、そういう論旨の主張も読んだ気がする。
だが、プロテインで筋肉が付くようにやはり原料というか身体を作る材料にコラーゲンが多いかどうかは肌の美しさに影響するのかなーと思う。
一般的にそういう印象、認識だろう。
牛乳を飲んでもすぐに尿が白くなるわけでない・・・
だが育ちざかりによく牛乳を飲む人はやっぱり確かに背が高くなる。
そういう発想に近い機序かと思う。
・・・
その後におれは何度か件(くだん)の奥さんに遭遇したが、豈はからんや、コラーゲン牛乳愛用者の奥さんの肌はだんだん綺麗になっていくのだ。
一か月後にはもう破顔しても、「少ししなびた瓜」みたいな印象になって、皺は目に見えて(目に見えるのは当然だが?)改善していた。
色は白くなって、年齢で言うと7,8歳は若返ったという印象だった。
「老婆」というニュアンスは消えて、「色っぽいおばさん」と言えるくらいだった。
自分でもわかっているので、奥さんは挙措動作もちょっとしなを作ったりして、だんだん可愛らしくなっていった。
「コラーゲン牛乳、ブームになっているらしいわね。愛用者増えている?」
「ええ。もう半分以上の家庭が切り替えてくれました。どこの奥さんにも加齢の悩み在りますからね。「今年のヒット商品」というのに選ばれそうです」
「そう。うふふ。一日100円で綺麗になれるなんて・・・いい時代に生まれたものね」
・・・
そんな会話をした1週間後に奥さんが、何ということだー
若い恋人と駆け落ちしてしまった!
風の噂で聞いたのだが、PTAで知り合った娘の担任の教師だという。
文字通りのPARENTとTEACHERのASSOCIATIONだが、これはやはり本来の趣旨に背馳しているご法度で、亭主はカンカンに怒っているという。
コラーゲン牛乳を毎日配達して、さしづめ“不倫愛のキューピッド”みたいになってしまったおれだが、後悔はしていない。
家庭でくすぶって、ワイドショーの芸能人の不倫愛を見ているよりも自分が不倫でもする方が「コラーゲン」気なおばさんやのー(こりゃあ元気なおばさんやのー)そう言って感心してもらえる元気な中年女性が増える。
多少風紀は乱れてもそのほうが健康的な社会ではないかとおれは思って、今日もコラーゲン牛乳を配達しているのである。
ほら、今日もまた綺麗になったあそこの未亡人が俺を誘っているぞ!ムフフ・・・♡
<了>
超短編・「コラーゲン」 夢美瑠瑠 @joeyasushi
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