第31話:姉ちゃん謝りに行く
松本
教室で煙草を吸うような頭のおかしい人間に関わったのが間違いだと言えばそれまでだが…… 級友が怪しい薬物を売り付けられそうになっては、流石に黙っていられなかった。
その級友はさっさと転校してしまった。薄情だなんて思っていない、と言えば嘘になるが、とても責める気にはなれない。自分と同じような目に合う前に逃げられて良かった。
ハルくん……恋人の
あの女に叩きのめされた屈辱、恋人を守れなかった悔恨、ボクシングに懸けた青春と夢を奪われた絶望……どれほど傷ついたのだろう。慰める言葉も浮かばない。
あの写真が有る限り、誰にも頼れない。いつまでこんなことが続くんだろう。いっそ世界中に裸の写真をバラ撒かれても、警察に駆け込んだ方が今よりはマシなんじゃないか……
ハルくんがいなければ、
今日もお金を取られ、腹を蹴られるのか。明日こそはアイツらが紹介する怪しい店で
何だろう。普段からサボり歩くなんて珍しくも無い翔子だが、
気味悪く思っていると、
数ヶ月振りに訪れた、罵声と暴力と略奪の無い日々。
知らないところで何かが起きているのだろうか。形だけは平穏な生活に不安ばかりが募る。否応なく嵐の前の静けさを感じさせられながらも、日付は進み……
それは、未だ晴れない気分で帰宅しようとした、とある放課後のことだった。
彼氏さんと一緒に、教室で待っていて下さい。とのメッセージが、スマホに届いた。
差出人は、あの忌まわしい日辻川翔子。
嫌な予感が当たったと、
逆らえるはずもなく、
そして、
嵐は来た。
「ま、松本、さやか、さん。井上…… はるゆき、さん」
日辻川翔子が教室に入ってきた。
全裸で。
「ごめんなさい! 今まで、本当に申し訳ありませんでした!」
あまりに唐突で非現実的な光景に凍り付く
これが、可愛い制服にはまるでそぐわない高額なアクセをジャラジャラさせて、誰彼構わず見下すような視線で
正直、何が何だか分からなかった。
「初めまして、松本さん、井上さん。俺は日辻川良太。このオウム怪人の…… チンパンジー人間の方が分かり易いか? とにかく、コイツの弟だよ」
そう言って、藤玉輪学院中等部の制服を来た少年が、翔子の服を抱えて教室に入って来た。
「取り敢えず、好きなだけ写真なり動画なり撮っておいてくれ。松本さんの写真は、コイツの仲間が持ってた分も全部消させたから、何も心配することは無いぞ」
「えっ…… あ、あの……」
「まぁ、無いことを証明することはできないからな…… だから、代わりにコイツの写真を撮って、抑止力にしていいよ。ある程度は気が楽になるだろ。それが終わったら、コイツは離島の観測所に住み込みで働かせて、慰謝料や賠償金を稼がせるつもりだけど……」
慰謝料なんか要らないって言われて、この場で殺されても、文句言えないよなぁ。
と、当たり前のように、その少年は言った。
「ごめんなさい! ごめんなさい! 殺さないでください! お金は払うから! 償いはしますから! 殺すのは止めてください! どうか、どうか命だけは……!」
全裸で震えながら、翔子は泣き叫んで床に頭突きを繰り返した。
多分…… ヤクザのケジメみたいなものじゃないか?
日辻川翔子はヘタを打ったのだ。今までヤクザだか半グレだかのケツ持ちで好き放題してきたが、そこが面倒見切れなくなった。
これから組織で
恨みは晴らさせてやるから、非合法な私刑に一枚噛んで共犯者になれ…… と、いうことじゃないだろうか。
そうだとすると…… 自分たちはどうすればいいのか? どう答えれば下手を打たずに済むのか?
ごく一般的な家庭で育った
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