第23話:佐藤院絢梧に祝福を
だから、
『分からせろ』
『手駒に出来れば良し。叩き潰しても一向に構わん』
それが、元華族である
とりあえず、可愛い女を連れていたので、その方向から絡んでみた。
不気味な奴だった。
止めろ、犯罪だぞ、と言い続けるだけで、一度も殴り返してくることは無かった。それなのに、あいつが女との間に割り込み、盾になるのをどうやっても止められなかった。
依緒には悪い遊びを教え込んだ。勉強だの家事だので抑圧されていた子供を堕とすのは簡単だった。彼女はすぐに弱者を足蹴にして金をせびり、遊び呆けるようになった。
その時の
どれだけ殴られても眉一つ動かさなかったのに。あんなに胸がスカッとしたことは無い。
依緒の話によれば、家でも冷遇されているらしい。陸でなし共の中に一人だけまともな奴が混じっていれば当然だろう。
家でも学校でも追い込まれ…… それでも、良太が泣きを入れてくる様子は一向に無かった。
何故だ。
何故あいつは屈しない?
何故あいつはあんなに強い?
定期報告の
ヤバい。ダメだ。何故だ。クソが!
絢梧を『翁の孫』にしてくれた、御祖父様のために。
御祖父様の御機嫌の取り方を、身を
佐藤院の血を引かない者がどんな扱いを受けるべきか、身を以て教えてくれた入婿の父さんのために。
御祖父様に叱られる
日辻川相手に、その分家ごときに、結果を出せずにいるわけにはいかないのだ。
こうなったら手下にすることは諦めて、完全に叩き潰す方向にシフトするか……
そう考えていた矢先、良太が
学園の評判がどうこう
と、思っていたのに。
水津流がやられた。いとも簡単に。目の前で腕を千切られて、失神させられ、
そして、僕は……
『ぶはっ! ぶはははははっ!!』
『お前、
『なあ、誰に言われて俺に絡んでるんだ?』
『気の毒だから、お前は殴らないでおいてやるよ』
『唄わない鸚鵡は、月夜の海に浮かべるぞ?』
「うがああああぁあ! があぁああああああ!!」
佐藤院絢梧は絶叫した。
この僕を! 佐藤院の翁の孫を! 好き放題
「フザけやがって! フザけやがって! フザけやがって! あの野郎ぉぉぉ!!」
狂ったように頭を搔き
「殺す! ブチ殺してやる! 佐藤院を舐めるなよ! 退学にしてやる! 少年院に送ってやる! 口座も電気も水道も止めてやる! 家も土地も戸籍も奪ってやる! 町中の人間全てにお前をクソ乞食と
「そりゃ無理だ」
空気が凍った。
血も
日辻川良太がそこにいた。
「お前の爺さん、もう死んだからな」
「………………………………は?」
拳を握りしめたまま固まっていた絢梧は、ひどく間抜けな声を出した。
クラスメイト達も、目をしばたたかせて恐る恐る良太を見る。
どこから入って来た? いつの間に?
亮太はもう一度口を開いた。
「お前の爺さんを殺してきたんだよ」
ぽん、と。ボールのような物を投げて寄越す。
反射的に受け取って、絢梧は見てしまった。
泣き叫んだ顔のままで永遠に固まった、佐藤院道永……彼の祖父の生首を。
「うわぁあああぁああ!?」
思わず投げ出す。
床に転がった
螺旋状に
首を120度ほど回されていた水津流の姿を思い出す。
彼は
「お前の爺ちゃん、もうダメだったよ。完全に生ゴミだったからな。お前を
まるでクラスメイトにでも話しかけるような穏やかな笑顔で、日辻川良太はそう言った。
ああ、
狂っているのは、日辻川良太じゃない。
僕だ。
だから、こんな幻覚を見るんだ。
佐藤院絢梧は、失神した。
「いや寝るなよ。まだ話は終わってないぞ」
頬をぺしぺしと
「爺さんが一番悪いってのは分かるけど、お前に何の責任も無いわけじゃないからな? 罪は償ってもらうぞ。爺さんに言われたわけじゃない悪いこともいっぱいやってるだろ?」
もう絢梧に言える言葉など何もなかった。ただただ涙を流して震えている。
良太は絢梧から顔を上げると、おろおろしたり無になろうとしたりしている一同を見回して、言った。
「お前らにもやったことの責任は取って貰う。全員逃げるな。逃げたら足を
まずお前が責任を取れ、人殺し!
と、口に出せるような、法と正義に命を懸けている人間は誰もいなかった。
2年A組の生徒たちは、声を殺して啜り泣きながら良太の前に整列した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます