第4話:ろくでもない家族

 我が家の扉を開けた瞬間、酒の匂いと笑い声がした。

 座敷を覗くと、豪奢な寿司桶とドンペリの瓶が転がっている。今日は外食ではなく出前らしい。


「平日から未成年に酒飲ませんなよ……」

「おっ、残飯漁りが寄って来たぞ!」


 ゲラゲラ笑っていた父、母、姉、妹が良太の方を向いた。


「あーサイアク。せっかく気分良かったのにムカつくツラ見せやがって。テメェ、また説教臭いこと言ったら今度こそブッ殺すぞ」


 姉の翔子しょうこが真っ赤な顔で空の酒瓶を片手に良太を睨みつける。


 やたらと運動神経が良く身体能力の高い姉には、小学生の頃から何度となく乱暴されたものだ。

 酔っぱらいが暴れて座敷が汚されてはたまらない。片付けるのは良太だ。

 良太がやらなければ、父の愛人辺りが呼ばれて家に上がり込んでくることになる。

 その辺に放り出してある宝石をちょろまかされるのが関の山だ。こいつらは気づきもしないで新しい物を買ってくるのだが。


「何を物欲しそうに見てるのですか? 貴方の分まで買うはず無いでしょう。お金は大事だから節約するんですよね? まずは言い出した人から実践してもらわないと」


 妹の洋子ようこが意地悪く歪んだ唇から酒臭い息をいた。

 

 爺ちゃん婆ちゃんが遺してくれた金を無駄遣いしちゃいけないんじゃないか、叔父おっちゃん達の言うことを聞いて生活を見直した方がいいんじゃないか、経済を回すにしても、せめて反社まがいの如何いかがわしい店に入り浸るのはめないか…… 

 と、発言してしまって以来、良太に関わる金は学費や娯楽費はもちろん、食費から被服費に至るまで徹底的にされた。

 教材扱いで支給される制服とジャージが、良太の普段着だ。


「あっはははははは! 何そのっぺた! また殴られたんでしょ? ざまぁ見なさいっての! み~んなアンタのことが嫌いなのよ!」


 母、瞳子とうこが手を叩いて哄笑する。見境なく金をぎ込んだ肌は四十路手前とは思えないほど若々しい。

 それでも、金をバラ撒かねば若い男を囲えなくなってきているようだが。


「今日も生意気なクソガキはイジメられたか! くぁーっ! 酒が美味うめぇ! この調子で解治かいじのヤツも死んでくれねぇかなぁ!」


 父、将人まさとは上機嫌で天井を仰ぐと高そうなボトルを一気に飲み干した。

 解治とは良太の叔父で、つまりは将人の実の弟だ。


 祖父母は二人の息子に遺産を相続させる際、弟には事業にも関わりのあった土地や建物、及び所有株式などの有価証券を、兄には私用しているだけの土地と家屋敷、及び預貯金等の現金を相続させた。

 有価証券の一部を換金し、祖父母は二人の息子に遺産を等分した。


 父は、祖父と叔父を深く憎んでいる。良太が叔父に助けを求めれば、父は何をしでかすか分からない。妙に若い娘を働かせている怪しげな店に足繁く通ってチップをバラ撒き、店のバックにいる連中と浅からぬ付き合いをしているような男なのだ。


 良太は何度目になるかも分からない溜息をくと、豪華な料理と家族の嘲笑を背に自分の部屋へ向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る