寄生人

ふゆつき

1話 知らない内に...

入学したての頃やクラス替えなどで、まず最初に行うことと言えば大概の人が人間関係を良好に築こうとするだろう。そこから友人同士のグループへと発展し、クラスの中で個々のグループが出来上がる。

日が経てば、休憩中に一緒に雑談をしたり、放課後に寄り道して遊んで帰ったりして楽しい学校生活が送れる。

...だが、その空間を壊そうとする寄生虫のような人物が居た。グループの輪に侵入し、人間関係を崩壊へと導き、成功しようが失敗しようが他のグループへと宿主を変え同じことを繰り返す...






その始まりは、ようやく講義や大学生活に慣れ始めた頃のことだった。


俺の名前は、秋崎あきさき志優しゅう。私立の大学に通う一年で、サークルやバイトはせずまったりとした生活を送っている。

今は講義の始まる数分前で、教室で待機している所だった。


「昼からの講義も面倒くさいなー」


「それは、俺も同感だ。でも、講義に出ないとテスト詰んでしまうぞ」


「それは、分かるけどよー...」


今、俺と話しているのは浮舟うきね旺太おうた。同じ学科の一年で、高校のからの仲だった旺太とは大学でも一緒に居ることが多い。地頭が良く勉強しなくても成績は良い。だが、講義はサボれるだけサボり、高校ではいつも頭髪検査に毎日のように引っかかっていた。


「どうせここまで来たんだし、講義受けるしかないだろ」


「やるしかないか...」


そう息込んだものの教授はまだ来ておらずスマホを弄って待機していた。


「なぁ、ちょっとだけ良いか?」


背後から、声がした。

後ろを振り向き確認するとそこに居たのは、同じ学科の男子だった。流石に俺も旺太も名前までは覚えておらず同じ学科に居たな、という感覚しかなかった。


「誰やっけこいつ?」


「えーっと確か、同じ学科だったよな?」


「同じ学科で同じ一年の狂上くるじょう義杵よしきだ」


義杵の身長は大学生の平均で比べれば低く、顔も合わせて見ると幼く見えてしまう。

講義が始まる寸前に話かけて来るんだ。きっと何か用事でもあるのかも...

今思うと後悔しかない...この少しの善意が無ければ、後々後悔せずに済んだのかも知れない....


「でっ、俺たちに何か用か?」


この時点で、俺たち二人は選択肢を間違えてしまった.......ここで「講義も始まるし後にしてくれ」と言って断っていればまだ、楽しい大学生活を送れたのかも知れない。


「少しだけ話がしたいって思ってさ」


「まぁ、教授もまだ来てないし別に構わないけど」


「俺も少しだけなら良いぞ」


俺たちの返事を聞いた義杵は、一つ後ろの座席に座り口を開く。


「早速なんだけどさ、二人って講義何受けてる?」


そう言われて俺たちは、大学の生徒だけが使える専用のページを開き義杵に見せた。俺も旺太も同じ講義を受講していた為、俺のスマホだけを渡した。


「マジかっ!俺と全く同じやんっ!」


そう言われ義杵の時間割を見せてもらうと義杵の言っていた通り同じだった。だが、予想以上に義杵の声が大きく同じ講義を受講している人たちから冷たい視線を浴びせられた。


「話は後で良いだろ。教授ももうそろそろ来そうだしさ」


俺や旺太は、大学内であまり悪目立ちはしたく無かった。会話をやめ義杵が席へ戻るを確認し教授が来るまでの間スマホを弄って待つことにした。


...

........

............


「疲れたー...今日もマジでノート書くの怠かったなー...」


「俺も明日手が筋肉痛になるわー」


「旺太は、スマホ弄ってただけだろうがよ」


旺太が冗談を良い、俺がそれに対しツッコむ。正直、いつも横でスマホゲームをしている姿を見ていると真似したくなる。だが、テスト後にはレポートを提出しなければならない為、板書を写すことを疎かにするわけにはいかない。


「次で、今日の講義も最後だな...」


「早く終わることを願うしかないな」


教室を出て4限目のある別教室へ移動しようとした時、さっき話しかけてきた義杵が近づいてきた。


「二人とも。次の講義一緒の席に座らないか?」


3限目に受けていた教室は、二人1組で座れる座席だったが、次の講義で扱う座席は三人1組で座れる所だった。断る理由も無かった俺は、そのまま了承しようとしたが旺太が先に口を開いた。


「義杵の隣に座ってたアイツは、良いのか?」


旺太が、その人の方へ視線を向ける。俺もその視線を追って見てみると、その男子はどこか安心したような雰囲気を見せて居た。

義杵のことを理解する前とした後では大分印象が変わってしまうことに後々俺は気づくことになる。


「あー鈴斗れいとか。高校が同じで一緒に居たけど、次の講義彼女と座るらしいから」


「まぁ、それは流石に邪魔するわけにはいかないもんな」


「そうなんだよ。だからお願い」


結局断ることはなく、三人で4限目の教室へ移動し、真ん中に旺太が座り両サイドに俺と義杵が座った。


「二人は、一人暮らし?」


「いや、実家からこの大学まで来てる」


俺たちの通っている大学は、実家から登校するとなると電車に乗らないと行けなくなる。とは言ってもたった一駅だけの移動しかしないので30分近くで大学に着く。


「逆に聞くけど義杵は、一人暮らししてるのか?」


「俺も実家だな。家から此処までだと自転車で3時間くらいかかるな」


「えっ...3時間もかけて来てるのかよ...」


もう少し話を詳しく聞くと、この大学付近にある駅から三駅ほど離れた場所に実家があるらしい。何故電車を使わないのかは、疑問だったが講義が始まる時刻まであまり時間が無かった為聞かないようにした。

四限目の講義が行われている中、小声で義杵が旺太に話しかけている姿を見たが俺は講義にだけ耳を傾けた。

..........何事もなく1時間半の講義を終えクラスの皆んなは帰宅モードへ移って居た。義杵は自転車での帰宅であったためその場で解散した。

俺と旺太は、二人で駅まで向かう。

雑談をして居たが講義についての話題に一区切りがつき、次はー旺太が新たな話題を開示する。


「アイツと話して思ったんだが、ヤバい奴な気がする...」


「ヤバい奴って、サイコパス的なのか?」


「ちょっとだけ違う気がするけど、大体合ってる」


曖昧な答えに、首を傾げたくなった。何故曖昧にしたのか考えようとしたが一日の疲労が溜まってしまって頭が働かなかった。


「まぁ、深く考えなくても良いだろ。悪い奴ってわけでも無さそうだし」


「そうだと良いな。でもまぁ義杵と関わることがあったとしても実験くらいだろうし大丈夫か。」




この時の俺たちは、義杵を甘く見ていた.......

これから先、と呼ばれるようになり、俺らのクラスから犠牲者が出てしまうことになる。そして、大学内での最初の犠牲者が.....


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