第15話 「幕間」 Manic Jeer
「あぁ……。んだよ負けんのかよ使えねぇなぁ……」
生気のない、死者のような風貌の男が、傷だらけになった少女達を眺めため息をつく。"千葉124"にも高台がある。"千葉12"のような平原でこそないが、切り立った崖の上からは少女達の戦闘する姿が良く見えた。
「クソが……ッ!!わざわざ奇襲させたっつーのに、ガキの1人も仕留められねえんじゃ意味ねぇだろうがッ!!」
男が近くの木を蹴りつける。
人外の膂力に晒された大木は、そのまま勢いをつけて崖下へと落下していく。少し遅れてドシンッ!っという轟音が山中に響いた。
「めんどくせぇなぁめんどくせぇなぁ!!!それもこれも全部あの女が悪ぃッ!!クソッ!!めんどくせぇ置き土産残しやがってッ!!」
男はその後も暫く息を荒げていたが、周囲の樹木が倒れ切る頃には冷静さを取り戻していた。フードからはみ出た数本の灰の髪が、消えかけの炎の様に怪しく揺らめく。
「ったく……。だが型落ちの個体とは言え怪怪鳥を倒すガキども……。ああクソ……」
男の口調からはわからないが、彼は怪怪鳥という魔物のことを高く評価していた。強力な魔法能力、巨大な体格によるフィジカル。走攻守バランスよく、遠中近どのレンジでも戦闘が可能。こちらの基準であれば優に2級はくだらないその優秀な戦闘能力は、単独行動中の彼にとっては貴重な戦力である。
更に、村での一幕から男はシエラの実力も把握していた。その評価は取るに足らない路肩の石ころ。怪怪鳥が敗れるということは万に一つもあり得ない。
だからこそ、それをただの少女達が倒した事実は彼には受け入れ難かった。
「そもそもあいつらどんな関係だぁ?こっちにゃ
少しの間思考していた男は、一つの可能性に行きつく。
「まさか、受け入れた?アレを?だとすりゃぁ…………ヒヒッ!」
男の嚙み殺すような笑い声は、森の空気に溶け静かに消えていく。仮に異種族を受け入れてるのだとすれば、男にとってそれは単なる笑い話だ。問題にはならない。
それどころか、むしろ仕事はやりやすくなったとすら言える。
しばらく口を押えていた男がその腕を今度は肩に回す。
「あぁ……。【
男が詠唱した直後、彼の背中が急速に膨れ上がる。後には真っ黒な片翼とそれを補うかのように形作られた炎の翼が現れていた。飛び散った火の粉が崖下の樹木へ触れると、それは一瞬にして大火へと成長し、近くの木々を焼き払った。
自らの作り出したその光景になんお感慨も浮かべず、漆黒の翼は迷宮の空へと羽ばたいていく──。
「傷が疼く……。役目を果たせと声が聞こえる」
男は高所が好きだった。他者を下に見ることができるから。
男は自分が好きだった。他者より優れている自負があるから。
即ち。
男は魔王の使徒だった。
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