第7話






 今日は初めての森の探索だ。念入りに準備をしたうえで森に入る。


 付き添いに来てるのはマキナちゃんだ。彼女はまだ子供だけどずっとこの森で暮らしているだけあって僕よりも森に詳しいしすでに一人で森に入る許可も出ている。


 というか僕よりも強い。まあ付き添いができるくらいなんだから当たり前なんだけど。



「おはよー、ソラ。準備できてる?」


「おはよう、マキナちゃん。準備はばっちりさ」


「じゃあ早速森にいってみよー!」



 マキナちゃんが元気に森に入っていくのを慌てて追いかける。


 流石に慣れているだけある。まったく緊張していない。


 自然体なマキナちゃんとは裏腹に僕の動きは少しぎこちない。緊張して思ったように体が動かない。



「ソラ大丈夫? 緊張してるの?」


「う、うん、大丈夫。緊張はちょっとしてるかな」


「まあ最初はそんなもんだよね。何かあったら私が助けてあげるから安心してよ」


「ありがとう。そのときはお願いするよ」



 自分より小さな女の子に助けられるなんて情けないが、意固地になって怪我をして迷惑をかけたら本末転倒だ。どうしようもないときは助けてもらおう。



「それで今回の目標は?」


「日持ちする果物と何か食べられる獣を一体狩ろうと思ってる。あまり奥まで入らずに浅いところの探索かな。地形も勉強はしたけど直接把握したいし」


「りょーかーい。でも最初だし浅い場所だけでいいと思うけど、付き添いがいるうちに森の奥にも何度かいっておいたほうがいいよ」


「うん。ある程度慣れたら奥まで行ってみるからそれまでよろしくね」


「まっかせなさーい。マキナちゃんがしっかり面倒みてあげる」



 マキナちゃんを伴って森の中を歩く。ここは異世界なのに地球と同じ動植物も存在している。見たことのない果物もあるがリンゴなんかの見知った果物もある。魔力が含まれているなど違いがあるのかもしれないが、僕からすれば大差なかった。目についた果物を数日分、必要な量だけ採っていく。


 しばらくの間歩き続け、村の周囲をぐるりと一周した。果物は必要な分を確保することができたが、まだ一度も獣を見かけてない。確かに村の近くにはあまり獣がいないと聞いているが、普段からこんなに見かけないものなんだろうか?疑問に思ったのでマキナちゃんに聞いてみる。



「マキナちゃん、ちっとも獣を見かけないんだけど普段からこんな感じなの?」


「んー、村の近場だから全く見かけないのは珍しいにしてもありえなくはないかも。せっかくだからソラが倒れてたっていう、森の入り口近くまで行ってみる? 距離は少しあるけど危険な奴がいるってこともないだろうし」


「そうだね、果物だけってのも味気ないしそっちまで行ってみようか」



 予定を変更して森の入り口付近まで足を延ばす。森に入ってから感知をし続けているが、植物や虫ばかりで今のところ獣の反応は全くない。そのまま継続して周辺を探りながら歩いているとマキナちゃんが話しかけてきた。



「そういえば狩りたい獲物ってきまってるの?」


「鹿とか兎とか、あとは鳥?」


「ふーん、でもどうやって狩るの? 聞いた話じゃ弓とかの扱いも下手なんでしょ? そもそも弓持ってきてないけど」


「鳥は多分僕の異能で捕まえられると思う。他の逃げる奴に関してはこっそり捕まえられそうになかったら投石で狩ろうと思ってる」



 二人で雑談しながら歩いていると、遂に獲物を見つけた。



「見つけた。フォレストクロウだ」



 フォレストクロウ。名前の通り森に生息するカラスだ。僕の知ってるカラスと違って全体的に緑がかっている。大きさも普通のカラスに比べて一回り位大きい。そこまで強いというわけではないが一応魔物の一種だ。


 フォレストクロウに気づかれぬようゆっくりとにじり寄る。こちらに気づいて飛び立とうとするが、念動力で足を引っ張ってやる。上手く飛び立てずに藻掻いているうちに、素早く近寄り捕らえて持ってきたナイフでとどめを刺す。



「やったじゃん。今日の目標達成だね」


「なんとかなったよ。とりあえずこいつの処理をしないとね」



 頸動脈を切って血抜きを始める。血が流れていくのを見ながら思いついたことを試してみる。念動力を使って血抜きを行うのだ。フォレストクロウの体内にある血を頸動脈に向かって押し出してみる。すごい勢いで血が噴き出してきて、あっという間に血抜きが終わった。



「何やったの? なんかすごい勢いで血が噴き出してたけど」


「異能を使って体内の血を頸動脈に向かって動かしたんだ。思いつきでやってみたんだけどうまいこといったよ」


「すごいじゃん。その異能結構便利だね」


「パワーはないからあんまり派手なことはできないけどね」



 話しながら内臓の処理もしていく。本当なら内臓も食べたいけど村まで距離があるから帰るまでに肉が腐敗してしまう。この場で内臓は全部捨てていく。



「内臓捨てちゃうの?」


「うん。村まで距離があるしこの場で冷やすこともできないからね」


「なら私が冷やしてあげるから全部持っていこうよ」



 そう言ってマキナちゃんが魔法で冷やしてくれる。難しい魔法ではないらしいけど魔力が全くない僕では使うことができない。うーむ、羨ましい。


 とにかくマキナちゃんのおかげで内臓も食べることができそうだ。


 初めての森の探索は問題なく終わったということで村に向かって進みだした。

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