第6章137話:チサトンと他者視点

万雷の拍手が降り注ぐ。


ルミは歩き出し、ステージ上を去っていく。


チサトンは、寝転んだまま、空を見上げた。


(負けてもうたな……)


青い空が広がっていた。


雲たちが流れている。


(アカン、悔しいわ……)


己の全力を振り絞った戦い。


夢想剣にまで入った、自分にとって最高の状態。


それでも、届かなかった。


勝てなかった。


「……っ……」


涙があふれてくる。


こぼれ落ちる涙。


ふと、チサトンは顔を覆うように手をかざす。


ややあって。


会場スタッフがやってきた。


「チサトン選手、大丈夫ですか?」


「ん、ああ。大丈夫や。意識はしっかりしとる。ただ……身体が動かん」


「はい。いま担架をお持ちしましたので」


「ああ。助かるわ」


と、チサトンは言った。


チサトンが担架に乗せられ、運ばれていく。







<ノノコ・あやねぽん視点>


担架で運ばれていくチサトンを眺めながら。


あやねぽんが言う。


「チサトン、負けちゃったわね~」


「……ああ」


ノノコは、なんだかんだチサトンの勝利で終わると思っていた。


ところが、その予想が覆され、小さくない衝撃を受けていた。


(……仮面の剣士ルミ、か)


チサトンは年間ランキング5位の剣士。


ソレを打ち破ったルミの実力は本物だ。


しかも、ただのチサトンではなく、夢想剣に入ったチサトンを。


夢想剣状態のチサトンは、瞬間的には、年間1位を越えるぐらいの爆発力があったはずだ。


それでも、しのぎ、逃げ切ったルミの強さに、ノノコは驚嘆する。


「ワシらも、うかうかしてたら危ないのう。下から上がってくる凄いヤツは、いくらでもおるからな」


「そうね~」


ルミは、そう遠くない未来に、きっと年間10位を越えてくるだろう。


グランチューバーは、あくまで人気商売であり、強さが全てではない世界だが……


ルミが魅せてくれる輝きに、惹かれる人間はたくさんいるだろうから。






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