第5章81話:旅館
一時間ほどで岐阜県。
さらに三時間も経てば、滋賀県に到達していた。
速すぎて笑ってしまう。
ここでいったん昼食にしたいと思った。
時辻町(ときつじちょう)という、小さな町。
山に近い町で、丘の上の道路から見下ろすと、3分の1ほどが田畑であることがわかる。
携帯で調べてみると、オムレツの名店があるそうなので、立ち寄ることにした。
素朴な洋食店。
カウンター席に座る。
オムレツを注文して、食べる。
美味しい……!
とろとろふわふわのオムレツであり、ケチャップも自家製なのか、めちゃくちゃ美味しい。
大満足だった。
さて……お腹も膨れたところで、サイクリング再開。
ふたたび道路を走り始める。
一時間後には琵琶湖にたどり着いた。
「わぁ……っ!」
人生ではじめて見る琵琶湖。
いったん自転車を停める。
砂浜のような岸辺に立つ。
琵琶湖は海のような湖だ、と言われるが……
意外と、対岸が見えている。
水平線の奥に横たわる緑の山々が、うっすらと。
けれど、めちゃくちゃ広いのはよくわかる。
ルミは、おもむろに砂浜に座って、湖を眺めることにした。
ぼうっとする。
のんびりと雲が流れる。
波のない穏やかな湖面。
時間がゆっくりと感じられるような風景。
はぁ……。
風が心地いい。
しばらく、何をするともなく湖を眺め、風を感じた。
夕方。
滋賀県をある程度進んだところで、日が沈んできた。
今日のライドはこのあたりで終了しよう。
適当に、旅館を探す。
飛び込みでも入れる旅館があったので、宿泊させてもらうことにした。
琵琶湖のそばの、小高い丘の上にある和風旅館『みちりん亭(みちりんてい)』である。
チェックインをして、仲居さんに部屋に通してもらう。
小綺麗な3階の和室。
手前の部屋と、奥の部屋の二つに分かれている。
手前の部屋には、中央にテーブルと座布団が置かれていた。
奥の部屋にもテーブルと椅子が置かれており、琵琶湖の広大な景色を眺められるようだ。
「綺麗ですね」
ふと、窓際に立って、琵琶湖を眺める。
夕焼けに、夜のとばりが下り始めた時刻。
琵琶湖の湖面は、夕陽と夜の色に染まり、宝石を溶かしたような色をたたえている。
ルミは、自転車に乗って一日中走ったことで、多少汗をかいていた。
なので、食事の前にお風呂に入ることにした。
個室にお風呂がついているタイプの宿である。
さっそく入り、汗を流し、身体を洗う。
さっぱりした状態でお風呂を出る。
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