第4章74話:他者視点3
<角刈り・坊主頭視点・続き>
そのあと、坊主頭が言った。
「と、ところでよ。俺は、ルミさんのファンなわけでよ、その……は、話しかけたい、っていうか? こ、声かけていい、かな?」
「……なんか急にキョドりはじめたな、お前」
「お、お前は話しかけたくないのかよ?」
「ん……まあ、そりゃ俺だってルミさんと話してみたい気持ちはあるけどよ」
「だろ? でも、もし無視されたらって思うと怖いじゃん? 俺、3日は寝込むぞ」
「お前が寝込むとか知るかよ。お前の3日間が、人類にとってそんなに重要だとでも?」
「じ、人類レベルの話をするなら、ほとんどの人の3日間は重要じゃないだろ!」
そんな話をしていたとき。
「あの……」
「!!?」
ルミが二人に話しかけてきた。
ルミは、人や魔物の気配を察知する能力が非常に高い。
この二人は、気配を消す能力に長けていたが、それでもルミの感知能力からは逃れられなかった。
ルミは言った。
「ええと、少し話が聞こえてたんですけど……リスナーの方ですか?」
「あ、は、はいいいい!」
坊主頭がビビりまくりながら答えた。
ルミは仮面をかぶっている。
表情がわからないのだ。
怒っているのか、無表情なのか、警戒しているのか。
とにかく角刈りは謝る。
「え、えっと、なんか、邪魔しちまったみたいっすね。その、すいません……」
「いいえ。私がここで筋トレをしてたのが悪いですから」
しかし、どうやらその筋トレも終わったらしく、ベンチもバーベルも片付けられていた。
角刈りが尋ねる。
「で、でも、どうしてダンジョンで筋トレを? なんか目的とかあるんすか?」
「いえ……私は正体を隠している身ですからね。ひとけのある場所でトレーニングを行うのはまずいと思ったんです」
「ああ……なるほど」
「それで……できれば二人にも、ココのことは黙っていただけると助かるのですが」
ルミがそう頼むと、坊主頭がまるで敬礼せんばかりに言った。
「もちろんです! 絶対言いふらしたりしませんし、もしこの階層に近づくやつを見かけたら、ぶち殺しておきますので!」
「いや殺しちゃダメですよ!? 吹聴しないでいただけたらそれでいいですから!」
ルミが慌ててそう言ったので、坊主頭はうなずいた。
ルミが告げる。
「私はそろそろ帰ります。二人も、ダンジョン探索頑張ってくださいね。では」
一礼して去っていくルミ。
彼女の姿が完全に消えてから、坊主頭が言った。
「や、やべええええええ! ルミさんとじかに話してしまったぞ! こ、こここれはもう、一生の思い出だ!」
「マジで緊張したな!! でも結構良い人だったな」
二人はしばらく、ルミと出会った感動を語り合うのだった。
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