第4章72話:他者視点
<坊主頭&角刈り視点>
――――鞘坂ダンジョン。
洞窟のようなダンジョンであり、その名の通り、鞘坂にあるダンジョンだが、このダンジョンには特徴がある。
ダンジョンは普通、ダンジョンボスを討伐すると消滅する。
しかし鞘坂ダンジョンは、ボスを倒しても消えない【非消滅ダンジョン】であると知られている。
ボスは存在するが、討伐しても、1日経てばリポップするのだ。
さらに、鞘坂ダンジョンは難易度別に複数のダンジョンが存在する。
【鞘坂第一ダンジョン】は初心者向け。
【鞘坂第二ダンジョン】は中級者向け。
【鞘坂第三ダンジョン】は上級者向け。
……である。
坊主頭の男と、角刈りの男である。
以下、「坊主頭」「角刈り」と称することにする。
彼らは、鞘坂第三ダンジョンにやってきていた。
鞘坂第三ダンジョンは【鞘坂第一ダンジョン】【鞘坂第二ダンジョン】を踏破し、探索にこなれてきた上級者やベテランがチャレンジするダンジョンだ。
難易度は高め。
このあたりから、ダンジョンを攻略する探索者の数はめっきり減り始める。
年に5~10名ほどが、ほんの数回チャレンジするだけだ。
坊主頭と角刈りは、そんな第三ダンジョンの数少ない探索者ペアであった。
彼らは、第三ダンジョンの2Fを歩いていた。
歯ごたえのある敵を斬り殺して、素材をゲットする。
このダンジョンの敵ならば、ほんの10匹狩るだけでも1ヶ月は生活できる収入が手に入る。
そろそろ二人のアイテムバッグも一杯になってきたころだった。
潮時だ。
「おい、そろそろバッグも限界だ。帰り支度をするぞ」
坊主頭が言った。
しかし角刈りはあさっての方向を見ている。
角刈りは言った。
「なあ、あそこ、部屋じゃないか? 岩に隠れてて見えにくいけどさ」
「ん? どれどれ……ああ、ほんとだ。部屋があるな」
坊主頭が肯定する。
角刈りの言う通り、岩陰に隠れて見えにくいが、確かに部屋の入り口があった。
坊主頭が興奮した。
「実質、隠し部屋みたいなもんじゃねえか? もしかしたらお宝があるかもしれねーぞ」
「ああ、そうだな!」
角刈りも笑みを浮かべる。
アイテムバッグの容量はもうきついが、本当に財宝が見つかるなら、いくらか素材を捨ててでも回収したい。
そう思いながら、岩の裏の部屋へと近づく。
二人は、部屋の中をのぞいた。
「ふ……ごー、ろく、しち、はち……ぐぐぐぐ、あと……2回!!」
そこにいたのは、仮面をかぶった一人の女性である。
なぜかベンチに寝転がって、
なぜか巨大なバーベルを挙げていた。
いわゆるベンチプレスである。
……いや、何してんの?
二人にとって、困惑するしかない光景だった。
「……!! おい、あの人!」
そのとき坊主頭が気づいた。
彼は言った。
「あの人、ルミさんだぞ! ルミちゃんねるの!」
「え……!?」
角刈りも驚愕する。
そしてよく目を凝らして、ベンチプレスの女性を注視した。
……確かに。
彼女は、ルミだ!
あの仮面。
あの衣服。
現在はポニーテールではなく、髪を下ろしているが……間違いない。
現在、ダンジョン配信者として世間をにぎわしている、あのルミだ。
しかし、角刈りが首をかしげる。
「いや、でも、何してるんだ? ここダンジョンだぞ? なんでベンチプレス?」
「さあ……」
坊主頭にもわからない。
いや、きっと誰にもわからないだろう。
いったいどんな理由があれば、上級ダンジョンの二階でベンチプレスを行うことになるのか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます