第2章25話:フリーパス試験2


試験官は笑う。


「ほう。俺の剣を防いだか。どうやら、少し君のことを見くびっていたようだな」


「……」


いや、というか。


試験官さんの攻撃、めちゃくちゃ軽い。


まあ、手加減してくれているんだろうな……とルミは思う。


―――――もちろん、試験官は結構本気であり、ルミが異常すぎるだけなのだが、彼女は自身を過小評価するクセがあるため、それに気づいていない。


「では本気でいかせてもらう! 破ァッ!!」


さっきより数段速く、重い斬撃を繰り出す試験官。


轟風をまとって剣を振りぬく。


だが。


「なっ―――――!?」


それすらも、軽々と木剣で受け止めるルミ。


これには試験官だけでなく、審査員たちも驚愕する。


「くっ!!」


つばぜり合いになる。


試験官は歯噛みした。


まさか、自分の全力の一撃をこうもあっさり止められるとは思わなかったのだ。


むしろ大学生相手に、ちょっとやりすぎかと思ったほどの攻撃だった。


いったい、緒方ルミとは何者なのか?


そう思った次の瞬間。


「じゃあ、次はこっちからいきますね」


「!?」


つばぜり合いの状態を軽々といなしたルミが、木剣をサッとすくいあげる。


下から斜めに切り上げる斬撃。


それが試験官を狙い打つ。


試験官は、これまで培った経験と直感で、かろうじてルミの攻撃に防御を間に合わせた。


しかし、体勢が整っていなかった。


不安定な防御では、ルミの斬撃を殺しきれない。


結局、ルミの木剣が試験官の木剣を弾き飛ばした。


決着がつく。


「俺の……負けだ」


試験官が敗北を認めた。


審査員たちは唖然として固まっていた。


ルミが静かに一礼した。


「ありがとうございました。これで合格を頂けるということでしょうか?」


「ああ。緒方ルミ、君にフリーパス試験合格の証明書を授与する」


試験官が指示すると、審査員の一人が我に返り、証明書をアイテムバッグから取り出した。


それをルミに授与する。


「ありがとうございます」


ルミは証明書を受け取り、一礼してから、闘技場を去っていった。





居残った試験官が、肩をすくめて言った。


「すごかったな。まさか、こんなに圧倒されるとは思わなかったぞ」


審査員5人と試験官。


この6人は同僚なので、仲が良い。


女性審査員は言った。


「ボロ負けでしたね。手も足も出ない感じでした」


「さすがにそこまででは……いや、そうかもな」


試験官は自身の手のひらを見つめる。


自分の調子が悪かったわけではない。


さきほどは良い剣撃を繰り出せたと思う。


だが、全く通用しなかった。


ルミの剣は、恐ろしく受けが軽かった。


しかしそれ以前に、絶対的な地力の差を感じた。


根本的な魔力やパワーが違うのだ。


ゆえに、どう立ち回っても、自分は緒方ルミから一本を取ることはできなかっただろう。


「悔しいですか?」


男性審査員が試験官に尋ねた。


試験官は苦笑する。


「そりゃ悔しいさ。でもまあ、優秀な後輩ってのはいくらでもいる。いちいち気に病んでも仕方ないだろ」


「そうですか。本格的に落ち込んでなくて、安心しました」


「いや、結構傷心だからな? 今日は飲みに行くぞ。お前らも付き合え」


「ええー」


「しょうがないわねー」


試験官と、審査員の男女たちが笑いあう。


この日、6人は近くの居酒屋にいって、日頃の愚痴や、今日の試験について語り合った。

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