第1章11話:決意



「人気が出るのは嬉しいけど……ここまで持ち上げられるのはちょっとまずい気がしますね」


ルミは平穏を愛していた。


いつかビッグになりたい……などと思ってはいない。


配信だって、超人気グランチューバーになりたくて始めたわけではない。


小遣い稼ぎができればいいと思っただけだ。


それがこんなことになるなんて。


(仮面をかぶっておいて良かった。正体を知られてしまったら、日常生活に支障が出ますよね……)


すでにネットでは、ルミとは何者か? について、様々な憶測が飛び交っているようだった。


ルミは身バレを恐れた。


(ダンジョン配信、辞めましょうか……)


そんなことを考えたときだった。


携帯が鳴る。


母からの連絡だ。


ルミは画面をスライドして、着信をオンにした。


「はい、もしもし。お母さん?」


「ルミ。配信、見ましたよ」


あう……。


母にもバレたか。


まあ、さすがに母親ならば一発でわかるよね。


「あなた、これからどうするのですか?」


母が聞いてきた。


ルミは答えた。


「それについてなんですが、配信を辞めようかと思っています」


「……」


「正直ここまで盛り上がるとは思っていませんでした。目立ちすぎて、大事になりそうな気がしますし、素性がバレないうちに引退してしまうのが良いと思うんです」


ルミがそう告げると、母は大きなため息をついた。


「はあぁ。あなたはほんとにクソボケですね」


え……クソボケ!?


「あなたは自分の目指した道を、途中で投げ出すのですか?」


「……!」


それはルミをハッとさせる言葉だった。


「一度やると決めたことを途中で投げ出すなど……私はあなたを、そんな半端者に育てた覚えはありません」


「お母さん……」


「いいですか。ダンジョン配信の日間ランキングにおいて、あなたはまだ70位かそこらですね。年間ランキングでは1000位以下です。確かに一躍人気になったのは事実でしょうが、まだこんなにも上がいるのです」


母は語りかけるように、続ける。


「自分より上がいるというのは、幸せなことですね。倒すべき、越えるべき好敵手が、あなたを高みへと導いてくれるでしょう。だから、ここで投げ出すなんてもったいないですよ」


母の言葉が胸にしみる。


ルミは自分の考えを改めた。


母は言った。


「まだ見ぬライバルたちに挑みなさい。そして1位を目指しなさい。いいですね?」


「……はい!」


ルミは力強く返事をする。


そうだ。


自分は何を考えていたんだ。


身バレが怖くて辞める?


日常生活に支障が出るからと、せっかく芽が出たのに引退する?


笑止だ。


(バレたらまずいなら、正体を隠しつつ、1位を目指せばいいだけじゃないですか……!)


配信のときは仮面をかぶり、日常では仮面を外して過ごす。


それを完璧にやれば、平穏を守りつつ配信者を続けられるだろう。


「やります! 私、一番になってみせます!」


ルミはやる気に燃えた。


「その意気です。頑張りなさい」


母との通話が終わる。


ルミは、背中を押してくれた母に感謝した。


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