第34話 黒と紅と青

 振り下ろされたその刃は空気抵抗を受けながら真っ直ぐ日彩が乗る機体へと向かっていく。そして、その瞬間湊月の視界は真っ白に染め上げられた。


「っ!?」


 なんと、日彩の機体が白い光を放ち始めたのだ。湊月はそれを見て直ぐに理解する。今この目の前にいる機体は危険だと。


 そして、今度は直ぐに逃げる。そうすることで危険から逃れようとしたのだ。


 湊月のその考えは当たっていた。なんと、日彩の乗る機体は黄色い閃光と共に立ち上がり切り落としたはずの右腕を再生させている。


 だが、再生と言っても光で作っているようだ。だから腕が治っている訳では無い。いわば義手のようなものだ。


 だが問題はそっちではなかった。今湊月の目の前にいる機体は左腕を再生させただけでなくその体を光のフォースで包み込んだのだ。そのせいで日彩の乗る機体はまるでそれ自体が光の塊のようになる。


 湊月はその姿を見て言葉を失った。そして、殺気立たせてその機体を見つめる。


「まだ俺の邪魔をする気か。なら、全力で潰すまでだ」


 湊月はそう言って足を前に進めようとした。しかし、その瞬間に唐突にめまいがする。そして、謎の頭痛と吐き気が湊月を襲った。


「っ!?」


 湊月はその頭痛を感じてすぐに理解した。遂に、湊月にも限界が来たのだ。そうなってしまえばもう後先を考えている暇は無い。これ以上戦いが長引けば不利になるのは湊月の方だからだ。


「っ!?これはまずい……!」


 湊月は苦悶の表情を浮かべながら前を向く。そして、影の力をさっきより強めて一撃で決めれるようにした。


 しかし、湊月が攻撃をすることはもう無かった。どうやら光のフォースユーザーはその力に耐えきれず機体に纏わせていた光を分散させた。


 そのおかげもあってか日彩の手が止まる。


「っ!?三空!?大丈夫か!?」


 日彩はそう叫んだ。しかし、その声は湊月には届かない。湊月は日彩に何が起こっているのかよく分からなかった。


 しかし、直ぐに状況を理解し、この瞬間が好機チャンスだと分かる。そして、その好機チャンスを逃すまいと日彩の乗る機体に向けて影の刃をつきつけた。


 その瞬間日彩は湊月が来ていることに気がつく。しかし、三空が心配でもある。しかし、今は心配して手を止めている暇など無い。攻撃されそうならやり返す他ないのだ。


 だが、その時もう1つ気づく。なんと日彩が乗っている機体は両腕を破壊されている。そうなってしまえばもう戦うすべは無い。さっきは三空の力で腕を作ることが出来たが、日彩にフォースは無いためもう作れない。


 そこで日彩の選べる道は1つしかないのだ。


「クッ……!」


 日彩は苦悶の表情を浮かべながらその場から逃亡した。湊月はそんな日彩を見て呆然と立ち尽くす。


「追わなくて良いの?」


 シェイドが不思議そうに聞いてきた。しかし、湊月は静かな声で言う。


「深追いは良くない。それに、俺にはまだやるべきことが残っている。ここで死ぬ訳にも行かない。たとえここで追ったとして追いつけるかも分からないし、敵の本拠地に行かれても困るからな。死を招く行為だけは避けなければならないんだ」


「そうだね。じゃあ、そのやるべき事の1つをしに行かないとだね」


 シェイドは不敵な笑みを浮かべて湊月に言う。湊月はその顔を見て優しく微笑むと、直ぐに恐怖に満ちた笑みを浮かべて振り返った。


 そして、自分のフォースに限界がくる前に玲香がいる場所に着くよう全力で走り出した。


 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━……そして現在……


 湊月はフォースに限界がくる前に玲香がいる場所まで辿り着いた。そして、湊月はそこにいるフィラメルの姿を捉える。


 そして、何も言うことなく気づかれないように近づきフィラメルに抱きついた。


「っ!?」


「え!?」


「間に合ったね」


「貴様!何者……っ!?」


 フィラメルは湊月が乗っているその機体を見て一瞬で凍りつく。なんと、湊月は乗っているイガルクの自爆機能をオンにしたのだ。フィラメルはそれにすぐに気が付き逃げようとする。


 しかし、湊月はがっちりと掴んでいて逃げないようにしていた。そのせいでフィラメルは逃げられない。


 そして、イガルクは臨界状態へと入り大爆発した。


「っ!?」


 玲香はその異様な光景を目の当たりにして何も言葉が出なくなる。それに、その機体に誰が乗っていたかすら分からない。


 シャドウの可能性が1番高いが、シャドウは今謎の機体と戦っている。だから、もしかしたら違う機体かもしれない。そう思って何も言葉が出なくなる。


 しかし、玲香は直ぐに知る。今乗っていた機体に湊月が乗っていたことを。


「っ!?シャドウ!?何でここに!?」


 なんと、湊月は玲香が乗っている紅酸漿のコックピットに入ってきたのだ。しかも、影の中から。


 玲香は突然の事で混乱する。そして、その混乱が思考をぐちゃぐちゃにして何が何だか分からなくさせてしまった。


「……い……おい……おい!玲香!前を見ろ!」


 その言葉が耳に入ってきた瞬間、玲香は慌てて前を向く。そして、こっちに向かってきているブラウトイフェルの存在を捉えた。


「っ!?嘘!?生きてたの!?あ、やばい……!間に合わない……!」


 玲香は情報量が多すぎてパニックになってしまいどこをどう動かすか分からなくなってしまった。そして、必死に思考をめぐらすが、全く纏まらない。


 しかし、フィラメルはそんなことなどお構い無しに向かってきている。湊月は混乱して何も出来なくなってしまった玲香に言った。


「玲香!変われ!」


 そして、湊月は玲香を押しのけると紅酸漿を操作し始める。そうすることでフィラメルの攻撃を受け止めた。


「フンッ!動きが変わったな。シャドウとやらが中に入ったのか?」


「よく分かったな。まぁ、もう遅いけどね!」


 湊月はそう言ってフィラメルの機体の右脇腹付近に蹴りを繰り出すと、直ぐに剣で攻撃をした。


「フンッ!」


 しかし、フィラメルはその攻撃をなんともないかのような雰囲気を醸し出しながら弾き返す。


「……なるほどな」


 湊月は少し驚きはしたが、納得したような顔つきで呟く。


「シャドウ……」


「……落ち着いたか?」


「はい。もう大丈夫です」


「よし、分かった。操縦は任せる。俺よりお前の方が上手いからな」


「っ!?い、いえ、そんなことは……」


「そんなことはある。もっと自分に自信を持っていい。今回は追い込まれているが相手が悪いと思っていろ。力は貸す」


 湊月はそう言って影を紅酸漿に流し込んでいく。すると、紅酸漿は黒く染まり始めた。


「っ!?これ……!?」


「もう残りは少ない。次の一撃で決めろ。隙は作る」


 湊月はそう言ってコックピットから外に出る。そして、紅酸漿の頭の上に立った。


「シャドウ!?そこ危ないですよ!」


「構わん。動き出せ。そして潰せ」


 湊月がそう言った瞬間玲香が動き出した。そして、それと同時にフィラメルも立ちあがまり動き出した。


「……隙と言っても一瞬だがな」


 湊月がそう呟いた瞬間フィラメルの乗る機体が揺らめく。その瞬間に湊月はブラウトイフェルに向かって攻撃を繰り出した。


「”影の波動”」


 その刹那、フィラメルを影の波が襲う。しかし、フィラメルはものともせずに突っ込んでくる。


 しかし、湊月の狙いはそこでは無い。影の波はただの目隠しだ。前を見えなくさせるだけの目隠し。だから、特に意味は無い。


「フンッ!こんなものが通用するわけなかろう!」


 フィラメルがそう叫んだ瞬間、影の中から黒い紅酸漿が現れた。


「貰った!」


 フィラメルはそう叫んで紅酸漿を切り裂く。しかし、何故か感触がしない。フィラメルはその事に戸惑い体が硬直する。


 すると、その2秒後に影の中からもう一機の黒い紅酸漿が現れた。フィラメルはそれを見てすぐり理解し反撃を繰り出す。


 しかし、何故か持っている剣は根元からおられていた。どうやら影を切った時に影が付着し、その影が剣を壊したらしい。


「しまっ……!」


 そして、その瞬間、玲香はフィラメルのブラウトイフェルの機体を右肩から左脇腹にかけて斜めに切り裂いた。

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シェイドライフ ~混沌の逆心~ 五三竜 @Komiryu5353

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