第4話 絶望を跳ね除けて
「……さて、どうするか……。この家は出口が2つある。だが、恐らくだがどちらから出ても見つかるだろう。なら、窓から……いや、やめておこう」
「天井裏は?」
「やめておけ。出られる場所は無い」
本当に詰みじゃないか。どこから出ても殺される未来しか見えない。それに、ここに立てこもっていてもいずれ見つかる。
やはり、逃げるしかない。だが、どうやって逃げるか……
「湊月、一旦この場から離れようよ」
「……そうだな」
湊月は頷いて裏口の方に行った。さすがにここにいても考えがまとまらない。思考がずっと同じところにいる。堂々巡りになっている。
「……っ!?待て、いい作戦を思いついた」
「え?」
「まさか、変装するとか言わないよね?」
「言うわけないだろ。影が操れるんだ。だったら、影になりすましていけばいい」
湊月はそんなことを言って不敵な笑みを浮かべた。そして、靴を取り裏の勝手口から外に出た。桜花とシェイドも湊月に続いて外に出る。
湊月は外に出るなりすぐに周りを見渡した。湊月の家は、他の家と隣接されており、裏から外に出ると、道路からは見えない。
だが、ここから逃げるには道路を渡る必要がある。
「湊月……まさか、影をまとって行けばいいとでも思ってるの?」
「馬鹿か?そんな作戦が通じるわけないだろ。この下には地下水が流れている。そして、それを流すための洞窟もある」
「そこを歩くのですか?でも、どうやってそこまで行くのですか?」
突如桜花が話しかけてきた。これまでずっと無口だったがなんとなく俺に対応してくれているみたいだ。
「地下に行く道ならある。俺が毎日掘っていたからな」
「でも、中は暗いんじゃ……」
「見えないわけじゃない。さっき気がついたが、影を使った時俺は暗闇もいつもと変わらずに見ることが出来るらしい」
それは、さっき家の中にいた時に、普段はシャッターを閉めていて明かりをつけるのも困難な家の中ですんなり電気をつけることが出来たから知ったことだ。
それに、この地下の存在は誰も知らない。知ったところで入ってくれば一本道だ。待ち伏せすれば殺せる。しかも、くらいせいで普通の人は見えないのだが、俺は見えるというわけだ。
「行くぞ……っ!?」
その時、どこかで大きな音が鳴った気がした。
「なんだ今の音は?」
「音?ですか?聞こえませんでしたけど……」
ドガーン!
再び音がした。今度はかなり近くだ。湊月は桜花をシェイドに任せると、こっそり音がした方向を見た。
その方向には、なんと、ロボットが見えた。そのロボットとは、ムスペルヘイム人がアメリカを侵略した時に使った、”
「なんであれが……?」
「きゃあああ!」
「湊月!まずいよ!バレちゃったよ!」
しまった。目を離している隙に懐に入られた。……クソッ、この位置からじゃ見えない。そらなら、座標さえ指定すれば影で殺せるかもしれない。
「”死ね”」
そう言ってくれる影を操るイメージをした。すると、影は突然ムスペルヘイム人の男にまとわりつき始め、だんだん飲み込んでいく。そして、静かに影の中に消えていった。
「何とか上手くいったな」
湊月はすぐに桜花達の元まで向かった。見ると、ムスペルヘイム人が来ていたと思われる服と銃が落ちている。
「……」
「あの、これからどうするのですか……?」
「……作戦変更だ。地下を通らず強行突破だ」
「なんでだい?」
「アサシンブレイカーが出てきやがった。もしあいつが地面を壊せば地下は埋まる。生き埋めにされては困るからな。それに、アイツが出てきたということは、
そう言ってアサルトライフルを拾った。そして、ムスペルヘイム人が来たと思われる方向まで歩いて表通りを見た。
軍がわんさかいる。さすがにここを抜けるのは難しい。
「お前ら、来い」
湊月は桜花とシェイドを手招きして呼んだ。当然2人は向かってくる。だが、桜花はかなり脅えている。さすがにこの状態で逃げ切れるか定かでは無いな。
「お前ら、影を纏うぞ。そしたら、あそこの側溝に入る。そしたら少しはバレないだろう」
そう言って影を纏わせた。そして、湊月は桜花を抱え込み、走り出す。シェイドは湊月の肩にいつものように乗った。そうして、素早く側溝まで入って行った。
さすがにこのくらい場所だと影を纏えば見えずらい。というか見えない。このまま行けば逃げ切れる。とかいう理想はただの理想でしかない。
「あーね、なるほどね。まさか行き止まりだなんて思ってなかったよ」
なんと、逃げ切れると思っていた側溝はすぐに行き止まりだった。しかも、上は閉ざされていて出口は来た道しかない。
(クソッ、失敗した。まさか行き止まりだとは思わなかった。それに、恐らくバレた。足音が聞こえる)
「おい!そこにいるのは誰だ!?」
(クソッ!もう来やがった……!)
「すみません。俺達避難しようと思ったのですが、ここに落ちてしまって……」
バンッ!
という音が鳴った。そして、その音がしたすぐ後に、自分達がいたすぐ後ろの壁に穴が開く音がする。
「おいおい、ルーザーに発言の権利は無いぞ」
目の前の男はそう言って銃口を向けてくる。どうやらもう俺達が日本人だと決めつけているらしい。
「仕方ない……ころ……」
「お助けを!何でもします!殺さないでください!」
湊月が覚悟を決めようとした時、突如桜花がそんなことを言いだした。
「お前、何を言っている!?」
「私死にたくない!殺さないでください!何でもしますから!」
そう言って頭を下げて泣きながら命乞いをする。すると、軍の男が言ってきた。
「ほぅ、何でもするか……なら、そこに裸で土下座しろ。そして、俺のおもちゃになってもらう。そしたら殺さないでやるよ」
その言葉に桜花は絶句する。そして、少し考えたあと涙を流しながら自分の制服に手をかけた。
「待て」
湊月はそれを止めた。
「え?」
「なぜあんなクズに頭を下げる必要がある?」
「それは、死にたくないからですよ!死なないためにはこうするしか……」
「どうせ殺される。あいつらはそういう奴らだ。……お前は、何もせずに、抗うこともせずに無駄死にするのか?」
湊月は少し強い口調で聞いた。すると、桜花は少しだけ驚いた表情をして顔を俯かせる。
「……湊月さんはわかってないです。死んだら終わりなんですよ。その恐怖がまだ分かってないです。死ぬくらいだったら、おもちゃになって、感情を失っていた方がマシです」
「マシじゃねぇ!……俺だって死ぬのは怖いさ。だがな、感情を失うっていうのは死んでるのと同じなんだよ!全てわかって見透かしたような口で偉そうに……ふざけるな!お前は何も分かっちゃいない!やりもしないで初めから出来ないって決めつけて諦めてるやつはすっこんでろ!……俺が証明してやるよ。たとえ絶望的な状況でも諦めないことが大事だってことをよ」
湊月はそう言ってムスペルヘイム人の男と向き合った。
「どうした?終わったか?」
「なぁ、お前は俺達日本人に発言の権利は無いと言ったな。それは、それ以外の権利も俺達にないということか?」
「黙れルーザーが!日本人では無い!ルーザーだお前らは!それに、貴様らは自分達に権利があると思っていたのか?馬鹿め!敗者に権利などない!」
男はそう言って笑う。それで全てがわかった。
「そうか……なら、勝てばいいんだな。勝てば権利がある。フフフ……簡単な事だ」
「おい、何を笑って……っ!?」
「どうした?殺さないのか?それとも、あれか?相手が自分より強ければ諦めるのか?フフフ……愚かな。そんな貴様には死をプレゼントしてやろう。”我が権限の元に貴様を処す。死ね”」
湊月はそう言って男を影で飲み込んだ。
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