大局の見える眼鏡

ぴろわんこ

第1話 

ある男が、町の眼鏡屋を覗きに来ていた。最近視力が低下したように感じたので、適当な眼鏡を買おうと思ったのだ。


大局の見える眼鏡という物が、店の片隅に置いてあった。興味を惹かれた男は店員に尋ねた。


「はっ、お客様はお目が高い。これは嵌めると大局が見えて、指針を示してくれる物です」

「どういうことかね?占いみたいに、この先のことが見えるということかね?」

「そんな感じですかね。試しにおかけになって、ご覧になりますか」


よく分からないながらも、男は眼鏡を嵌めてみた。そうしたら未来の分岐点がいろいろ見えてきた。

男の仕事の企画や趣味のゴルフの分岐点と、こっちを選ぶべきだという指針まで見えた。


「いかがでごさいますか?」

「いや驚いた。本当に見えたよ。この指針通りにやれば上手くいくということだよね?」

「ええ、最初の方に買った方に特典がございます。今ならば通常価格十万円のところを、八万円でお買いあげになれます」


何だか話が逸らされた気がしたが、男は高給取りだったし珍しい物好きだということもあって、思い切って買うことにした。最悪、話のタネにでもなればいいと思ったのだ。通常の眼鏡を買うことは、すっかり忘れていた。


家に帰って早速嵌めてみた。来週のプレゼンはA企画で行こうかB企画で行こうか迷っていたのだが、その眼鏡はB企画で行けと太い線で示してした。おれは内心A企画の方がいいと思っていたのだが、これも何かの縁かと男はB企画で行くことにした。


プレゼンは大成功だった。後で知ったのだがA企画だった場合、まず失敗に終わったらしい。

趣味のゴルフでも、このクラブを使った方がいいという指針通りにしたら好成績を収めた。

投資でも指針通りにやったら、大儲けした。

興奮した男は、SNSにこの眼鏡はすごいぞと投稿した。


眼鏡は飛ぶように売れた。通常価格の十万円となっても、先行投資と思えば安いものよと割り切ってみんな買った。


しかし、こんなはずではと首を傾げる人が増えてきた。指針通りにやったのに、犯罪被害にあったり、投資で失敗したり、経営していた会社が倒産したり、勤めた会社をクビになったりと不運続きの人が続出した。


人々の怒りの矛先は眼鏡屋へと向かった。

「いや私が開発して売った眼鏡ですが、私は嘘は言ってませんよ」

眼鏡屋の主人は悪びれもせず、記者会見でそう答えた。

「だけど指針通りにやれば上手くいくと売り込んだのでしょう?」

「そうは言ってません。最初に買った方に特典があると、申し上げただけです。みんながみんな幸運をつかんだら無茶苦茶な世の中になってしまいますから、後で買った人は不運な道を選ぶようになってしまっただけです」

「ならせめて、こっちを選ぶと不幸になるとか眼鏡の効力はもう無いとか、そう表示が出るようにすべきではなかったですか?」

「いや誰が、自分が不幸になる道を好き好んで選びますか。こうした指針も予定調和として必要だったのです」


当然みんな納得するはずもなく、裁判で眼鏡の購入費用と慰謝料を払えと係争中である。しかし眼鏡屋の主人だけは、この先どうなるかが見えているのかもしれない。


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