ペンギン仕掛けの目覚まし時計 8

織風 羊

第1話



 小綺麗にしてはいるが、それほど流行ってはいないなと分かる宝石店がある。

営業二人、一人は店員で、もう一人は広報も兼ねている謂わば販売促進係、販促の営業マンが一人。

そして、デザイナーが一人。

そして、やたらに関西弁を使う社長。

計四人でこの店は営業している。

この不景気の中、営業は行き詰まり、赤字運転の自転車操業のような形である。


 店内にいる女性の営業マン、店員は綺麗に整った化粧を施して、譬へ作り笑顔でも美しい。


 もう一人の販促担当の営業マンは朝から出ていて、店には居ない。

今朝もにこやかに店を出て行ったが、内心はこの店もそろそろ終わりだな、などと思っている。


 デザイナーは、PCの画面と睨めっこで、何か独特の美しいオリジナリティ溢れた作品を考えている。


 社長も居ない。

社長室にドサリと座っているような時代ではない。

得意先廻りに忙しい。


 お昼頃に一人の女性が入って来た。

近所の商社のOLさんであろうか?

ゆっくりと宝石を見ている。

この店では、お伺いを立てたりはしない。

ゆっくりと商品を見てもらい、気に入った様子や、また難しい顔などをされてかから、


「どのようなものをお探しですか」


 などと声を掛けてはみるが、客が黙っているとそっと離れて、また様子を見る。


 やがて、何も言わずにOLらしき女性が店を出て行ったが、


「ありがとうございました」


 と声を掛け、それっきり誰も入ってくる様子がなかった。


 夕方に販促担当の男性が帰ってきたが、いつものように


「今、帰りました」


 とにこやかに答えるだけで、何の報告も無さそうである。


 やがて社長が帰ってくるが、その頃には女性店員も既に帰っており、社長は疲れた顔を隠そうともせずに自分の部屋へ戻ろうとする。

途中で、デザイナーと目が合い、ニコリと笑うと、


「どう、ええデザインできた?」


 と労うが、


「済みません、いまいち納得できるものが出来なくて・・・。」


 と答えるデザイナーに、


「ええねん、そんな直ぐにええデザイン浮かんだら、世界中の誰もがデザイナーやん、家帰ってゆっくりしてーな」


 と言いながら肩を叩く。

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