第2話 転入生が来た

「優夜、その顔うざいから止めてくれ」


 「喧嘩売ってるのか?」


 姉とのデート?の約束をした翌日優夜ゆうやはいつものように学校に登校していた。


 しかし、優夜も心のどこかでデートだと意識していたのか、幼いの子供のように楽しみで昨日はあまり寝付けなかった。目の下にうっすらと見えるクマがその証拠だ。


 「どうせお前のことだ、大好きな姉さんとデートの予定ができて無意識で気持ち悪い顔になったんだろ」


 人と話すのがあまり得意ではない優夜にとって、今話している間宮まみや 朝陽あさひは家族を除いて唯一話せる存在...そう思っていた。


 だが、その関係も今日までのようだ。朝陽が口にした一言によって今まで築いてきた信頼関係がガタガタと揺れ崩れ落ちかけている。


 「次何か言ったら、お前が片想いしてる相手を校内中にばらまくぞ。それでも良いなら言ってみろ」


 思春期真っ只中の中高生にとって意中の相手をばらされるのは死刑宣告にも等しい行為だ。

 朝陽もその例に洩れず、これ以上言うのは自分の首を締めるようなものだと分かったのだろう。変な発言は控えるようになった。


 「マジで、デートなのかよ...あ、けどさっき言ったことは嘘じゃないぜ。俺みたいなお前のことを分かってる人からしたら、いつものシスコンが発動したってすぐ分かるけどよ、お前と話したこともないような奴等からしたら怖いだろうな。いつも無表情なやつが今日はなぜかにやけてるんだから」


 「そこまで顔に出てたか...」


 「あぁ、嘘だと思ったら鏡見てこいよ」


 「周りを見れば嫌でも分かる。本当らしいな」


 あまり広いとは言えない教室で話していれば何もしなくとも会話が聴こえてくるのは珍しくない。


 自分が普段とは違うのは周りの雰囲気から何となく伝わってきた。


 (こいつのせいで会話がいつも聞かれてるんだよな)


 軽度のオタクが入っている優夜といつも話しているが、朝陽は校内でも有名人だ。


 小学生の頃からずっとバスケをしてきた朝陽は、県内でも有数の強豪校に数えられるこの高校に進学後今までの努力が実を結んだのか急激に成長し、今年からはU-18の日本代表候補に選ばれた。


 U-18に選ばれるならば将来はプロの道に進んでもおかしくない。

 そう思った校内の女子達は、朝陽の女性の好みを探るため日々会話を盗み聞きしている。


 「悪いな、いつも女子達に会話聞かれてて落ち着かないだろ」


 「良いじゃないか、男なら女性にモテるのは嬉しいことだろ。僕のことは気にしなくてもいい」


 僕と違って国内トップクラスのバスケの実力がありながら、その容姿も決して悪くはない。いや、悪くはないどころか優れている。


 バスケ選手ならではの高身長とさわやかな雰囲気、光に照らされるとより輝きをます金色の髪と整った目鼻立ち。


 これだけ揃えばモテない方が難しい。


 「優夜もバスケまたやれば俺の気持ち分かるかもよ」


 「僕の目には姉さん以外の女性は映ってない」


 「勿体ないないよな、お前なら俺と違って日本代表でもスタメンになれるだろうに」


 朝陽は知っている。僕が中学時代バスケで結果を残していた事実を。


 だが、同時にやめた理由も知っているため、無理に戻ってくれとは言えない。 


 「考えてはみる。でも確約はできない」


 「分かってるよ。可能性があるだけまだ良いさ」


 (ねえ今の話し聞いた?氷野くん間宮くん以上にバスケ上手いらしいわよ)


 (聞いてたわよ。もし本当なら間宮くんの彼女になれなくてもまだ希望があるわね)


 ......こっちに聞こえないように話しているつもりなのだろうが、全て聞こえている。


 こうなるのが嫌で僕自身の話しはあまりしてこなかったのだが知られてしまったようだ。 


 「悪い......これは完全に俺がやっちまったわ」


 「この罪は重い。1週間学食奢りで手を打てるが、どうする?」


 「うっ俺の今月の小遣いピンチなの分かってて言ってるだろ......けど俺が悪いからな、仕方ないそれで許してくれ」


 1週間奢りの約束を結んだ丁度のタイミングで学校のチャイムが校内に鳴り響く。


 「また昼に話そうな」


 優夜とは違うクラスの朝陽は、自分のクラスがこのクラスとは真逆の位置にあるため、このままでは間に合わないと廊下を走り出す。


 朝陽のクラスの担任は厳しい性格で時間に厳格だ。もし間に合わなければ何を言われることか。


 「おい!間宮!なぜまだ教室にいない!それだけじゃない。廊下を走って移動しろなんて私は指導した覚えはないぞ!」


 「ひいぃぃすみません!!」


 (話しが終わるタイミングは完璧だったのに、先生に見つかるタイミングは最悪だな)


 校内最凶?の先生が朝陽を説教している中、今度は優夜のクラスのドアが開く。


 そこには担任の先生と、知らないはずだがどこかで会ったこどがあるような気のする美少女が教室に入ってくる。


 「あれ?その子誰ですか?」


 陽キャの1人が見知らぬ女生徒がいるのに気付き先生に問いかける。



 「突然だが今日から転入生がこのクラスの一員になる。みんな仲良くするようにしてくれ。じゃあ自己紹介してくれ」


 

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