屋上
今日こそ奴を殺して私も死ぬ。そう決意すると私は例の屋上に向かった。よく晴れている。決行にふさわしい日だ。
屋上に上がると賑わっていた。しかもカステラや綿菓子や金魚すくいの屋台が並んでいる。人々は時おり空を見上げてなにかを待っているようだ。私もつられて上を伺っていると、やがて轟音が響き、濃い青空に五つの白い円が描かれていく。どうやら戦闘機が飛んでいるらしい。今日はなにかの祭りなのだろうか。
しくじった、と私は思った。こんなに人がいては決行はとても無理だ。
歯がゆい思いをしていると、奴がやってきた。周囲の人々と同じく間の抜けた楽しそうな顔をしている。すぐに帰っては怪しまれるだろうと、奴としばらくぶらつくことにした。
甘い香りがして顔を上げると、奴がある屋台を指さしている。バウムクーヘンの店だ。バウムクーヘンは私たちの好物だ。私たちは言った。
「プレーンとチョコとキャラメルとブルーベリーをひとつずつ下さい」
店主はにこにこ笑いながら品物を手渡した。
私たちはバウムクーヘンを食べながらあてもなく歩いた。無言だった。ふと空を見上げると戦闘機が二機、大きなハートを描いていた。
私たちはとくに別れも言わず、まだまだ賑わっている屋上を去った。私は悔しさと虚しさが入り混じった気分だったが、バウムクーヘンはとても美味しかった。
スケッチブック 庭一 @ut_281
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