▼【第二十二話】 閑話、日曜日の女子会。

「で、どうだったの水族館デート」

 報告会、とばかりに遥に飲みにまた飲みに誘われた。

 まあ、遥の友人は今は私くらいしかいないから、仕方がないんだろうけど。

「楽しかったよ。想像以上に。お土産にサメのぬいぐるみまで買ってもらっちゃった」

 遥は嬉しそうにそう報告してくる。

 その笑顔はまだ遥がまともだった頃のように私には思える。

「そう、良かったわね」

「にしても、田沼さん、茜にデートのことまで喋ってるのね」

 少しムッとした表情を遥は見せる。

 あれ、もしかして焼いてるのか? そんなまさか?

「私には喋ってないわよ」

 変な勘繰りされても面倒だし、もう全部喋らないといけないかな?

「え? じゃあなんで水族館ってことまで知ってるの?」

「んー、私、ゲームやってるじゃない?」

「うん」

「最近まで確証なかったんだけど、同じギルドメンバーが田沼さんだったのよ」

 さすがにもう確定した。

 半信半疑だったけど、ここまでくればもう疑いようがない。

「え? なにそれ? 偶然なの?」

 おうおう、焦ってる焦ってる…… ってことは、やっぱり焼いてるのか? 嫉妬を?

 もしかして遥も田沼に気があるの? 本当に? 私には信じられないなぁ、そんなに水族館デートが気に入ったのかな。

 あ、いや、違うな。よくよく考えれば遥もこんなまともなデートは久しぶりなのかな? それは浮かれもする?

 田沼の服を買いに行ったのは流石にデートとしてカウントしてなかった。と考えれば、なるほど。

 田沼は意外と幸運の持ち主なのかも…… って、行き着く先がなぁ、心配にはなるけれども。

「偶然だと思う。向こうは私って気づいてないと思うし」

「えっと、私もやる! 教えてよ!!」

「あら、どうしたの、そんな必死になって」

 え? うそ、遥、割と必死じゃない? これ本気か?

「デートは思ってたより悪くなかった。茜が言うように昔の私となら相性は良いのかも……」

 遥は顔を俯かせてそんなことを言っている。

 まあ、確かに昔の遥かなら真面目ちゃん同士で相性は良いとは思うけどさ。

「今のあなたとは?」

「わかんない。そんなことよりやってるゲームを教えてよ、ねえ?」

「そもそも、あなたパソコン持ってないでしょう?」

「スマホじゃ無理なの? 新しい奴だよ、私の」

 そう言って遥は自分のスマホを私に見せて来る。

 必死だな。良かったな、田沼。どうやら遥の御眼鏡には叶ったようだよ。

「スマホじゃ無理ね」

 そもそもスマホが出る前からあるゲームだってば。

 そんな古いゲームやってるの私らくらいだもんな。もう何時サービス終了してもおかしくないのよね。移住先の候補だけでも探しておこうかしら?

「ええー、パソコン買うから設定しに来てよ」

 え? まじでコイツ、パソコンを買っちゃうくらい田沼にもうそこまで気があるの?

 それなら、まあ…… と思ったけど、外で会う分にはいいけど、遥の部屋には行きたくないなぁ。

「いやよ、遥の家、危険じゃない。いつ来るかもわからないんでしょう? 一応は、まだ決まってないとはいえ結婚控えているのよ」

「それは…… 来ない方が良いね。私の部屋……」

 そう言って、遥も諦めた。

 遥の部屋はもう気軽に遊びにいけれるような場所じゃないのよね。

「それよりどうだったのよ、デートの方を詳しく教えてよ」

「だから、楽しかったって。田沼さん、全然普通に会話できるし、ただ、まあ、真面目過ぎて冗談も全て真に受けてるような人だけど」

 そう言って遥は遠い目をした。

 やっぱり色々と思うこともあるのか。まあ、今のままの生活じゃダメって本人も思っているようだし。

 今の遥には田沼みたいなクソ真面目な人間が眩しく見えちゃうのかも?

 ないものねだりって奴なのかな?

「へー、遥の御眼鏡にはかなったのね。ちょっと意外だけど…… まあ、元々は遥も地味だったしね」

 そうそう、遥は昔から顔とスタイルは良かったけど恰好は地味だったのよね。

 けど、受付嬢なんかやらされるから、あんな奴らに目を付けられて……

「でも、あの頃の私は顔で人を判断してたよ。あの頃に田沼さんと出会ってたら、迷わずに振ってたよ」

「ああ、そう言えばイケメン好きだったよね。だからあんなのに引っかかっちゃうんだよ」

 そういやそうだった。コイツもコイツで人、というか異性を顔で判断してたやつだった。

「まあ、そうなんだけど……」

「で、どうするのよ。本気で田沼と付き合うの?」

 本題はそこよね? どうするんだろう遥。

「付き合ってもいいかなって、土曜のデートで少し思っちゃった」

「あらま」

 予想外。

 私の予想は、やっぱり詰まらい奴だった、で終了だと思ってたけど、みんなでアドバイスしすぎたのか?

 いや、そこまでたいしたこと言ってないよね? じゃあ、田沼の実力…… いや、元々ゲームじゃしっかりコミュニケーション取れてるしリーダーシップもあるのよね。

 それが現実でも発揮されたったってこと? なら、それなら、まあ、私がどうこう言う権利はないんだけど。

 相手が今の遥なのがなぁ……

「けど、やっぱり無理だよね、私じゃ。もう私の頭と体は別々なの……」

 こんなこと言ってる奴だよ。

 本人も自覚してどうにかしたいって思ってはいるようだけど。

 私も詳しくは聞けてないけど、あいつらにいつもどんなことされてんのよ。

「でしょうね。さっさと振ってあればよかったのに。今振ったら田沼さん、立ち直れないんじゃない?」

 私がそう言うと遥は項垂れてしまった。

「でも、でもね、私にとって最後のチャンスかもしれないの……」

「何言ってるの?」

 最後のチャンス? なんだそれ?

「いや、こっちの話…… やっぱり私の本性知ったら失望しちゃうよね?」

「そりゃ…… わかってると思うけど真面目が服着ているような人間よ? 耐えられると思う?」

 いや、今でもあの田沼が遥の今の本性を知ったら、刺殺事件に発展すると私は思ってるよ。あー、でも田沼の怒りはあいつらに向くのかしらね?

 どちらにしろ、流血沙汰は避けて欲しいな。

 下手したらうちの会社大打撃だよ。

「そか、そうだよね。でも、もう少しだけ……」

「遥にとって、そんなに田沼に心引かれる要素がなにかあるの?」

 そんな後ろ髪惹かれるような要素あるのか?

「何だろう、癒し? 許し? それを求めちゃったのかも……」

 許し、か。

 まあ、想像でしかないないけど、そういうものを求めちゃうものなのかしらね。

 確かにそれを田沼に求めるのは少しわかる気がする。

 あの惚れ様ならワンチャン許してくれる気がするし。

「え? なに、あいつに父親でも感じちゃったてんの? まあ、歳は離れてるから……」

 下手したら私らよりも親に歳近いからね、田沼は。

 それを考えると私は無理だわ。

「父親、そうかもしれない。私のパパ、小さいときに死んじゃってるし。ねえ、歳ってどれくらい離れてるの?」

「十二才。一回り。私達とおなじ干支。そういった話はしてないの?」

 そう言うと、遥も少し驚いた顔を見せた。

 遥の中ではそこまで歳が離れているとは思っていなかったらしい。

 まあ、歳の割にはふけてないからね、田沼は。

「え、結構離れてるのね、もう少し若いと思ってた。あと車運転できないのもマイナスかも」

 遥はそう言って口を尖らせた。

 少し拗ねているのかしら?

「んま、私生活ひきこもりぽいからね」

 あれかしらね、日の光に当たらないと歳を感じさせないって奴。

 出勤の際の移動ぐらいしか田沼は日の光、浴びてなさそうだし。

「それは茜もじゃない?」

「私はほどほどにしてるもの」

 そう、ほどほどにはしている、ハズ。

 まあ、もうのめり込むほどのコンテンツもないのよね、実際。

 でも私もログインしてないとなんか落ち着かないのよね。

「ひきこもりか、どんな所に住んでるんだろう?」

「一軒家って聞いた覚えがあるけど、直接聞いたわけじゃないしなぁ」

「あー、そう言えば土地くれるって言ってたっけ。いいな、一軒家憧れる…… 私ずっとマンション暮らしだったし」

 え? 土地くれる? すげーな、あいつ。

 そりゃ、遥も心動かされるって話か? いや、それは流石に失礼かな?

「じゃあ、もう田沼と結婚して転がり込めばいいじゃない。そのまま会社辞めちゃえば、あいつらとの縁も切れるんじゃない?」

「そっか、その手もあるのか……」

 遥は私の言った冗談に明るい表情を見せた。

「え? 本気?」

「やっぱり田沼さんとの関係もう少し続ける。私も希望を見つけちゃったかもしれない」

 まじか、こいつ。

 いや、でも、そうなっちゃえば割と二人とも幸せなのか?

 遥が想像以上に田沼の事気に入っているみたいだし?

 でも、でもなぁ……

「いや、あいつらと縁切れるのであれば私も賛成だけどさ、肝心の田沼には黙っておくつもり?」

「はぁ…… やっぱり無理か」

 そう言って遥はテーブルに倒れ込んだ。

「いや、まあ、騙しとおせれば、それはそれでありなきもするんだけどね?」

 一生騙しとおせれば、それはそれでいいんじゃないかなって、私は思うけど。




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