スピリット

ー後ろに誰かいる…?

振り返ると「窓ガラスに映る私」と目が合った。

両耳にイヤホン、髪の毛ボザボサ、本当に引きこもりの人みたいだ。

今日も長い1日だった。

高校には行かずに、午前中はオンライン授業で時間を潰した。そして午後はずっと寝ていた。

アルバイトもせず、家事もテキトーに終わらせる。

なんで私が、こんなことするの…?

14歳の時からおかしくなった私の人生は、現在も変わらず荒れていた。

みんな高校に通えて、アルバイトできて、家に居場所があって…。

自分が惨めだと思わないように、心配されないように頑張ってきたーはずだった。


「あんた最近変よ?」

偶然、この日はおばあちゃんが家に来ていた。

変とは…?不登校ぎみになっているから…?

「ご飯食べてるの?」

言われて気づいた。私は今日、食べ物を口にしていない。

なんなら高校に通いづらくなってきた頃から、家事をするために朝ご飯を抜いていた。

元々、高校に入学してすぐの頃から、夜ご飯もろくに食べていなかった。

ほとんど何も食べずに高校に行って、ものすごい勢いで先生捕まえて、家事を効率よくする方法を教えてもらった日もあった。

そして友達や先輩とは、何も喋らずに逃げるように帰る。

ー誰か気づいてほしかった。


夜中の…いや、早朝4時。私はイヤホンを両耳につけて、ベランダから街を眺める。

実はずっと夜から寝ていない。寝るのが怖い。寝ようとすると頭の中でお祭りが始まる。

今までのたくさんの記憶たちが騒ぎまくっている。

暴走族より強烈で、地獄よりはマシかな。

ぐるぐる、ガヤガヤ。どこまでもついてくる。

ベランダに出ると少しは落ち着く。でも同時に恐ろしい想像が脳裏を過ぎった。

ー飛び降りたらどうなるのかな。

ここはマンションで上の階。落ちたら完全に死ぬ。

なんでだろ。死ぬのかな私。

その日の昼前だった。おばあちゃんにお願いした。

「私、精神科受診したい」


そう告げた日から刻々と、精神状態は悪化した。

まず拒食症状が現れて、ひどい時では水さえ飲めなかった。

ご飯を食べなかったら死ぬ。でも死にたいからどうでもいいや。

水だって飲まなくても、死んだ時に軽くなるからいいじゃん。

その精神状態が異常だったと今だから言える。

当時は、何も考えられなかった。毎日、私はもうすぐ死ぬのかもという漠然とした恐怖が付き纏っていた。


今でも忘れない。お母さんが私に放ったあの一言。

「ミーは病気だって思い込んでるだけだから。それでいつもママを振り回すの」


私が何を言っても、もう誰も分かってはくれそうになかった。


病院はかなり当たりで、みるみるうちに私は回復していった。

あまり詳しくは伝えてくれなかったけれど「軽度のうつ」らしい。

うつ病は重度になると自殺の危険性もある病気だ。早めに処置出来て本当に良かった。

約1ヶ月間、高校を休ませてもらった。単位はまぁ大丈夫だった。


私の体調が回復してきた頃、また問題にぶち当たる。

私は療養のためにおばあちゃんの家に逃げた。でもそれからも、ずっとそこに住むことは出来ない。

児童相談所なんて何にもしてくれない。ただ私の話を聞くだけで、親権が母親である以上、どうすることも出来ないらしい。

お母さんのせいで…。家庭環境が悪いからこうなったのに…。

ー『親権は私だから、ミーはここに帰るしかないの』

言いくるめられて結果、3か月後に長後に連行させられた。

そんな状況でも、私がなんとか耐えられたのは、キミがいたから。

私は独りぼっちで、家も学校も逃げ出したいくらいにヒドかった。

お母さんの問題は、重い話になりそうだから簡単に説明すると、

ー人に依存する病気…? 依存性パーソナリティ障害…? みたいな感じ。

もうこれだけで、大変なのは察してくれると思う。

しかも依存相手が…。

1年前から、私の家にお母さんと住み始めちゃった。

同棲ってやつ。同居じゃないってことは、そういうことです。

私、一応ね1人っ子だから、誰にも頼れなかったのが多分つらさの原因。

母子家庭なのに、その母親がこんな感じで自立出来てないんだもん。

お父さんと、おばあちゃんには会えるんだけど、この2人は10年以上前から絶縁状態で、修復不可能なほど昔は争いがすごかった。

唯一の親戚も、精神病や心が病んでたりして、私が負担をかけるわけにはいかない。

頼りたいんだけど、頼れる状態じゃない。

逆に頼られることが多かった私は、ついに爆発した。

地球人、かなりヤバいって…。


誰かに依存しないと生きていけない私は、片っ端から色んな人に連絡を取った。

いつものノリで「元気〜?」って送ると、決まって「元気だよ〜」って返ってくる。

それが死ぬほど辛かった。自分からきいておいてバカみたい。

でもある人とのやり取りで、私は本音を遠回しに話せた。

それがキミ。

中3の時、みんなからの視線が痛かった。気にしないようにって、初日は下を向いて廊下を歩いていた。

でも椅子並べの時、あたかも昨日まで、私がここにいたかのように接してくれたキミにはすごく救われました。ありがとう。ついでに…だいすき。

キミのインスタフォローした時のこと覚えてるかな?

実はあの時、めっちゃ病気の療養中で、結構死にかけてた。

中学の人なんて絶対フォローしないって決めてたのに、気づいたら今はすごい数になってます。

LINE持ってない人で、インスタフォローした1番最初の人が意外にもキミでした。

あっさりフォローバックきたから、なんか拍子抜けしちゃった。

不登校だったやつがなんだよ、とか思われなくて良かったって安心しました。

それから気がついたら、キミのことばっかり考えるようになりました。

連絡取ってみたいけど、同じクラスになった記憶があんまりないし、仲が良いわけでもないからどうなんだろ…。

でも私は頑張りました。私から元気??って送りましたよね?

そしたら、なんか色々ゴタゴタしてー現在に至ってるじゃん。

それも全部、幸せなことだけどね。

誰かと関わって、こんなに幸せな気持ちになったの久しぶりかな。

ここ数年は、かなりエグかったから。

なんで突然、彼女の存在を教えてくれたのかは分からないけど、そんなの私にとってはどうでもいいです。

依存してるだけなのかも知れないけど、めっちゃだいすき。

いつか楽しく過ごせる日が来るといいな。

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