告白

私は高校生になった。

入学式は狭いキャンパス内で行われた。

保護者たちに写真を撮られた。

私はーここにいる。


中学生の時、私は不登校だった。

学校に行きたくないから行っていなかった。そんなの嘘だ。

本当は誰よりも、ここにいる誰よりも、学校へ行きたかった。

だって「みんな」がいるから。

私が喋れば、みんな喋る。

私が笑えば、みんな笑う。

私がいればーみんなもいる。

それなのにー。

私は、ここにいたらいけない。

ー存在がいらない。


「暇な人たち誘ってトランプしてて良いから」

マイティーチャーに渡された赤いトランプ。

私はそれをじっと見つめた。

「はーい!」

返事は決まっていた。


「ジョーカーやろー」

気づけばジョーカーは、キャンパス内で定着していた。

まさか、こんなに参加者が増えるとは思ってもいなかった。

何故、ジョーカーと呼ぶのか。そんなの決まっている。

単純にトランプと呼ぶよりも、ジョーカーと呼んだ方が面白いから。

面白いから!

些細なことも楽しめなくなったら、生きる気力を失うよ。

それを分かれ!って言っても無理か…。

いや、私は諦めない。だって私はジョーカーの主催者だもん。

ジョーカーだもん。

私はジョーカーだもん。

ジョーカーだよ。

洗脳しちゃうからね。

逃げたら許さないよ。

なーんてね。


「大富豪じゃなくて人狼やる?」

大富豪の次は人狼になった。人狼って狼と人間のバトルじゃん。

しかも嘘つかなきゃいけないの嫌だ。

私がジョーカーの主催者だもん。

私がゲームマスターやる。

私以外の人にはゲームマスターなんて出来ないもん。

役職配りなんて私が1番うまいじゃん。

だってさ、私はジョーカーだよ?

誰よりも、みんなを見てるもん。

誰よりも、面白いもん。

誰よりも、みんなが大好きだもん。

それを分かれ!


私のジョーカーをつまらないと言ったヤツが「初めて」ジョーカーに参加してくれた。

どうせ、またボロカスに毒吐いて、どっかに行くんでしょ。ここは無害なのに。

もう良いもんね。感想なんて期待してないし。

「初めて」人に対してネガティブな感情が湧いた。

いつもなら「私がいれば絶対大丈夫」って自信満々だったのに。

なんだよ、コイツ。

まぁいいや。とりあえず役職の説明書を渡しとくか。

なんか、めっちゃ見てるし。なんだ、コイツ。

なんだよ、コイツ…。

なんとなく面白そうだから、コイツには重要な役職カードを渡そう。

人前で発言しなさそうだけど、毒は吐けるっぽいから、しばらく放っておこう。

隣に座ってるけど、気にしないでおこう。

めっちゃ気になるけど、気にしないでおこう…。


今、毒吐かれたら、立ち直れないかもー。


「好きなの?」

は?

「カードゲーム」

あ…。カードゲームね。

「そりゃあね!ジョーカーだもん」

「ふーん」

え? 何? 何よ、好きなの? って…。

「なんかさー」

「うん…」

「好きなんでしょ?」


「うん…よく分かったね…」


「失恋したの?」

え…何それ。

「失恋した女の子は髪切るんだって」

へー、そんなんだ…って。は?

「私、女の子扱いされるの嫌い!」

え? そこ???

「そもそも失恋なんて…毎日してまーす!」

…さすが、ジョーカーに好かれた私!

ちょっと元気出たかも…。

ゲームマスターは私だから。誰にも譲りたくなかった。

でも…。

あのよく分かんないヤツなら、向いてるかも…。

あのなんかムカつくやつなら向いてるかも…。

ムカつくのって、多分…。

何考えてるか分からないから!

もし他のこと考えてるなら、ジョーカーのことでも考えてよ!

いや…ジョーカーも違う。

「初めて」ジョーカーと私を分けて欲しいと思った。




もっとさ、私のこと考えてよ…。




「初めて」人の私服に惹かれた。

初対面での印象は「オシャレな人」だった。

私は、本当に服に興味がない。お金の無駄とまで思っていた。

でも、そこまで思い込まなくても良いかも…。

ちょっとずつ前を向けた気がする。トラウマからね。


「洋服オシャレだね」

「ありがとー」

たまにだけど、私とマッチした服の時だけは周りも褒めてくれた。

それまで服にこだわっていたわけではないから、調子になんて乗らない。

乗れるわけないじゃん。

「そんな格好してるから」「そんな格好するなよ」「私服オシャレじゃん⁉」

たまに、過去の記憶がフラッシュバックする。

私はオシャレに興味がない。それなのに、なんでこんなこと言われたくらいで心が冷えるのか。

オシャレしてる人を見るだけで、なんとも言えない気持ちになるのか。

嫉妬や妬みといったドロドロしたものでは決してない。悲しさや辛さという感じでもない。

1番近い感情は「諦め」かも知れない。

なんで諦めていたのだろう。分からない。

『もうちょっと自分のこと考えなさい』

私は、思い込むものを変えた。

そしたら前しか向けなくなった…。

「洋服見たい!」

まさか私が、こんなことを言うとはね。


シャッフルさん!

私は、君のことをシャッフルと呼ぶ!

だって面白いじゃん!

トランプって呼んでも良いかな、って思ったけど、トランプじゃダメ。

アメリカの大統領じゃないんだから。なーんてね。

でもさ、次第に呼べなくなっちゃった。

だってシャッフルって、名前じゃないじゃん。

名前を呼びたいって思うようになってさ…。

好きなものはずっと見ていたいっていう心理に近いかも…。

今、すごい恥ずかしくなってきた。すごい暴露したよね、私。

もう一回ね。ちゃんと伝える!


初めて君のシャッフル見た時、本当にビックリしたよ。

だってさ、あんなに綺麗で、しかも癒やされて、すごい!って思った!

世界で1番割れにくいシャボン玉って感じがしたよ!

割れるんだけど、割れないように頑張ってるみたいな!

それくらい儚い感じがしたのよ! 伝わって。

でもさ、なんか元気がなかったんだよね。

なんか、自信がなさげに見えたのよ。カードが泣きそうになっててさ、私まで辛くなってきちゃったよ。

元気だして欲しくて、でも私は同情するの苦手だから、振り回すしかないなって思った。

そこで出た言葉が「シャッフル下手!」だったから、自分でも笑っちゃった。

久しぶりに毒吐けて嬉しかった。めっちゃスッキリしたよ!

もうねー本当に本当に…大好きなんだよ、分かれ!

何でこんなに夢中になっちゃったのかは分からないけど…。

これからも夢中になるよ!覚悟しなさい。

あと、君はそのままでいなさい。誰かに何か言われたら、私が笑い飛ばすから!

私が笑うと、地球がうるさくなるけど、

覚悟してね。

これからも振り回すと思うけど、

覚悟してね。


最後に良い名言を教えてあげるよ。

私が、頭で作った名言だよ。


ー覚悟があれば、人は何だって出来る。

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