第35話 休みが明けて。
四人での王都の散策を楽しんでから二日。私は眠い目を必死に開けて授業を聞いていた。
実はあの日に買った小説を、深夜まで読んでしまい次の日には再び寝坊をしてしまったの。悩んだ私は、以前寝坊した時に、あれだけ殿下に怒られたのにこれはまずいと、仮病を演じることにした。
ということで昨日は一日休んでしまったのだ。。
その日の授業の終了後、心配して駆けつけた三人にはちゃんと本当のことを言い、平謝りと口止めをした。
そして今日。再び寝坊をしそうになった私だったが、ハンナの頑張りでなんとか朝から授業に参加することに成功した。しかし、眠さが飛んだわけではない。
……。
「ウィナ」
まどろみの中、アマリアの澄んだ声が私の耳を刺激するが、私の心は底なし沼の中から抜けられないでいた。
「ウィナッ」
「ん、んん……?」
必死に目を覚まし顔をあげると、アマリアが焦ったような顔で私の向こうを見つめていた。私は嫌な予感を感じ慌てて振り向く。
あ……。
嫌な予感は的中だ。こめかみをピクピクさせながら殿下が恐ろしい笑顔で立っていた。
「あ、殿下……」
「おはよう、良く寝れたようだね」
「い、いえ……寝てません」
「机に顔を突っ伏して?」
「寝てません」
「……。まあいい。話がある」
「あ、お昼ですね。食堂に?」
「……プライベートな話だ」
「!」
……半分寝ぼけていた私だが、急激に意識が覚醒し始める。殿下がわざわざ私にプライベートな話をしにきたのだ。間違いない。
許嫁の関係の解消についてだろう。
私は弾かれるように立ち上がる。それを見た殿下は無言で廊下に向かう。私はアマリアに「三人で食事していて」と伝え、殿下についていく。
殿下は以前私を呼び出した空き教室に向かうようだ。昨日休んでしまったが、本当は昨日にでもこの話をしたかったのかもしれない。
なんとなくテストの結果を知らされるような、ドキドキ感の中、私は黙って殿下の後ろをあるいていた。このまま教室までの沈黙を耐えるのかと思ったその時、殿下がボソリと呟く。
「昨日は、大丈夫だったのか? 風邪をひいたとか」
「え?」
「風邪はもう良いのか?」
「あ、はい。……ありがとうございます。もうすっかり」
「そうか……」
それだけを言うと再び殿下は黙って歩いていく。
ズル休みをした自分としては、少し心が痛む。私は少し気まずい気分のまま黙って付いていくしかなかった。
殿下は空き教室の中を確認すると、中に入りドアを閉める。なんとなく前回のことを思い出した私は、そっと窓へ近寄り空いていた窓を閉める。
窓を閉めた私が振り向くと、殿下が腕を組み真面目そうな顔で話を始める。
「それで、昨日王城へ行ったんだ」
「は、はい……」
「……許嫁の解消の話だが……」
何か言いにくそうな殿下に、私はとうとう殿下との繋がりが切れたことを覚悟した。だが、殿下の口からは別の言葉が紡がれる。
「父……。陛下はそれをお認めにならなかった……」
「……な、なんと」
「それでも強く言ったんだ」
「はい……」
私の中では許嫁の解消が、断罪イベントから逃れる最も確実な手だと思っていた。だが、それも叶わないのね……。
私は殿下を見つめながら、ショックとともに少しだけホッとしている自分も感じていた。
「とりあえず、ウィノリタの話も聞きたいというのが陛下の言葉だ」
「……へ?」
「変な声を上げるな」
「申し訳ありません。しかし私なんかが、陛下に何を言えましょう」
「知らぬ。だが連れてこいという」
「きょ、今日ですか?」
「いや、陛下も忙しい身だ、二週間後の休日に時間を指定されている、いいな?」
「は、はあ……」
私の戸惑いの混じった返事に、殿下もため息を漏らす。貴族の令嬢とはいえ、一介の学生である私がこの国の王に会うだなんて、予想以上に胃のキリキリする方向に流れてしまった。
「分かってる。なるべく話が軽く住むように謁見の間などは使わないように頼んでる」
「謁見の間……」
なんとなくイメージは出来るだろう、王座に座った陛下の前で跪く私。そして両脇には大臣などの重鎮が並んでいる……。そんな重々しい空気だ。
確かに勘弁してほしいわ。
私は真っ青な顔で殿下の顔を見上げれば、少しすまなそうな顔で見つめ返してきた。
「頑張れますでしょうか……」
「やるしか無いだろう」
「……そうですね」
私ばかりでは無い、殿下も気が重いのだろう。
「ああ、そうだ。服装だが、こないだのスーツのような服でなく一般的なものを選んでくれ」
「え? 駄目でした? あの服」
「い、いや。あれはあれでいいのだが、王城へ行くのだからスタンダードの物が良い」
「そ、そうですね」
たしかにあれはかなりカジュアルだから不味いかもしれないわね。
話が終わると殿下は食堂へ向かう。私も少し悩んだが、このくらいの時間ならアマリア達もまだ食事をしているだろう。
――こんな距離感も最後かもしれないし。
私は、殿下のすぐ後ろから一緒に食堂へ向かう。殿下もそれに気がついたが特に嫌そうな顔をせず進んでいく。
――このまま腕を取って……。
なんてことは出来ないけどね。
私は殿下の後ろを歩きながら、ふと違和感を感じる。
――あれ? 私なにか忘れてる?
なんだろう。大事なイベントでも見逃したのだろうか。私はなんとも言えない違和感と不安感を感じていた。
※無事にカクヨムコンの10万字到着しました。もう少しこの章が終わるまでありますが。よろしくお願いします。
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