浅草橋祓鑑
宇奈月けやき
Opening
赤い回転灯がめまぐるしく周囲を照らす中で、遽しくうごめくたくさんの人影があった。
本来なら静寂に包まれているはずの山奥の県道が真っ赤な光に覆われている。
たくさんの緊急車両がずらっと並ぶその先には、山の斜面に激突して大破した軽自動車。
「ガソリン、抜き取り完了!」
「オイル類の洗浄完了!!」
「よし、ボンネットのヒンジを切断するぞ! おまえは反対側のフェンダーを切断してくれ!!」
「了解!」
レスキュー隊員たちの怒号が飛び交い、同時にパワーカッターのけたたましい音が鳴り響く。
「旦那さん、もう少しの辛抱ですから頑張ってください!」
「奥さんも、意識をしっかり持って!!」
救急隊員が一生懸命、前席にいる男女に話しかけている。
二人はダッシュボードとシートに完全に挟まれており、恐らく下半身は原形をとどめていないと思われる。あまりの惨状に、駆けつけた警察官もレスキュー隊員も、そして救急隊員も……全員が車の解体に躍起になっていた。
だが、助手席の女性を励ますために声をかけていた救急隊員が、目を疑った。
「あ……!」
救急車の中にいたはずの少女が、いつのまにかガードレールに向かってふらふらと歩いているのが視界の隅に映ったのだ。
「娘さん!」
気づいた救急隊員が持っていた消化器を投げ出して少女に駆け寄ったが……空しくも間に合わなかった。彼の腕は、宙を掻くだけ。少女の身体は暗く閉ざされた崖の底へと消えていった。
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