02_『お父さん』

「ね、パパ!」

「お父さん」

「お父さん(どれだっていいのに)、今度の土曜日、ジェイくん来る?」

「華音、心の声、全部聞こえてる」

「ごめんなさい、ジェイくんに『心に気持ちをしまっちゃいけないよ』って教えてもらったから」

 下を向く娘を抱き上げる。今度の4月から小学校だ。父としては心配でならない。

(女学校にでも入れれば良かった)

でもそうなると双子を引き離すことになる。


「ジェイか? 来るよ、アイスクリーム買って来るって言ってたよ。華音の好きなストロベリー」

「わぁ、だからジェイくん大好き!」


「パパぁ!」

「華月、パパじゃなくて」

「お父さん(どれだっていいのに)」

「お前も心の声駄々洩れだ」

「だってジェイくんが」

「分かった、分かった。でも『お父さん』って呼ぶのは忘れないこと!」

「難しいよ……お父さんはそういうけど、哲平おじちゃんが来ると『父ちゃんが正しい』って言うし、お祖父ちゃんは『マイボーイじゃなかった、ダディは元気かい?』って、必ず言うし。茅平のあきら叔父ちゃんは『パパは?』って言うし」


 華音を下ろした。

「お前たちはどれがいいんだ?」

「決めなくていいと思う!」

 華音が可愛い声で叫ぶ。

「お父さんはそれじゃヤだ」

「じゃ、何曜日はどれって決める?」

「華月、それをカレンダーにでも書くのか?」

「来た人に合わせて、呼び方変えたらどうかな」

 華音の発言には考え込む父。

「お父さんでダディで父ちゃんでパパ! いっつも華音の言うことは真面目に考えるよね!」

「そ、そういうわけじゃないよ、華月。お前の言葉も真剣に考えてる」

「ホントかな…… きっと僕はどこかで拾われたんだ……」

 その体を抱きしめて華音が父を睨む。

「華月を苛めたら一番イヤな名前で呼ぶからね!」

「おい、苛めてなんかいないだろ! 一番イヤなってなんだよ」

「華くん!」


 後ろから真理恵の笑い声が聞こえる。

「華くんの負けーー」

「マリエ、少しは味方しろよ!」

「今度ね。今じゃがいも剥いてるから忙しいの」

 子どもたちの相手を止めて真理恵の隣に立つ。

「俺もやるよ」

「ありがとう! 今日、なんにしようか」

「なんに、って、今じゃがいも剥いてるじゃん」

「思いつかないから取り敢えず。剥きながら考えてたの」

「……マリエ、ずっと変わんないよな。それも一つの才能だと思うよ」

 真理恵の頬にキスをする。


「お父さんがぁ、キスしてたぁ」

「おかあさんにぃ、キスしてたぁ」

「華月っ、華音っ、変な歌歌うんじゃない!」

 逃げていく後姿に溜息をつく。

「マリエ、俺心配。あの調子っ外れは哲平さんの仕込みだろ」

「よく歌ってるもん、童謡とかも」

「母さんが悲しそうに言ってたよ。二人の歌には不協和音が溢れてるって」

「哲平さんの影響力って絶大よね」

 今度張り紙をしておこうと決めた。

[哲平さん 歌厳禁!]

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