第23話 試合
「なんて自分はダメなんだろう」
自分が情けなく、そして、恥ずかしかった。一日中家にいて、頭に浮かぶのは自責の念と自分に対する呪いの言葉だけだった。
そんな学校に来ない純を担任はしつこく訪ねて来た。しかし、行けないものは行けなかった。自分でもよく分からないが、どうしてもだめだった。説明しようにも、自分でも分からないのだから説明のしようがない。だから、担任には当然、純の苦しみは伝わらなかった。担任は、ただ、純が怠けているとしか理解していないようだった。そのことも、純には重い心的負担となっていく。
日明は、週に二、三回だという不定期のその社会人サッカーの練習に、どんなに部活で疲れていようが、練習がある日は欠かさず参加した。リーダーの小川さんは、毎回来ていたが、社会人サッカーチームのメンバーはいつも、全員集まるわけではなく、大体いつも七、八人くらいで、多くが集まるわけではなかった。だが、練習風景は和気あいあいとしていて、みんな楽しそうだった。
「・・・」
その光景を眺め、この人たちもサッカーが本当に好きなのだなと日明は思った。日本では、まだ、Jリーグができる前で、サッカーは全然普及していない、認知度の低いスポーツの中でもマイナーな存在だった。というか、野球以外はみんなそんな存在だった。そんな時代。それでも、時間と場所を何とかひねり出して、サッカーを続けている彼らの情熱はそれだけで、相当のものがあった。
まして気楽な学生の日明と違い、彼らは社会人、昼間働いているのだ。その疲れた体を押してサッカーをやるには、それなりの思いがなければできないことだった。
そして、軽くいつものパス練習からシュート練習。それらを終えると、今日も二手に別れミニゲームが始まる。
「君が今度の試合出てくれたらなぁ」
落合という人が言った。この人は割と気さくで、十歳くらいは年の違う高校生の日明にもよく話しかけてくれた。
「おお、そうだ。出てくれよ。そしたらうちも勝てるぞ。ねえ、小川さん」
ひょうきんな柴田という人もそれにのる。どうやらそんなに強いチームではないらしかった。
「そうだな」
小川が答える。
「出れるんでしょ」
落合が小川を見る。
「ああ、高校生でも問題はないよ。選手登録さえすればね」
「じゃあ、出ろよ」
落合が日明を見る。
「はははっ、そうっすね」
日明は笑ってごまかす。気持ちはうれしかったし、日明も出てみたかった。試合もしてみたかった。しかし、日明には部活があり、日曜日休むわけにはいかなかった。
「部活があるだろ」
小川が困る日明に助け船を出す。
「部活なんてさぼっちまえよ。俺はよくさぼってたぜ」
日明もよくさぼっていた。しかし、今は絶対にできない。
「なっ」
落合は諦めない。
「はあ、はははっ」
それを、さらに笑って誤魔化す日明だった。
「みんな驚くぜ。こいつのドリブル見たらほんと腰抜かすぜ」
落合は盛り上がる。
「一応登録だけしといたら」
白井というマジメそうな人が、その話を聞いていて小川に言った。
「そうだね」
小川は日明を見る。
「いいかい?」
「は、はい」
「よしっ、決まり」
落合が言った。
「・・・」
次の日曜日、また一年と一緒に練習試合を見学している日明がいた。日明は、グラウンドの周囲の草の生えた丘から、ただ、無力に試合を見つめていた。
「・・・」
試合に出たかった。ただ、試合に出たかった。日明はそれだけを思っていた。
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