第13話 折れる心

 朝と帰り、どうしても登下校の時、サッカー部のグラウンドのすぐ横を通る。ボールを蹴る部員たちが見える。その姿を見るだけで、純の胸に何とも言えない刺すような痛みが走った。

 かつてはあそこに自分がいた。かつて仲間だった部員たちがサッカーボールを蹴る姿がかつての自分の幻影を見せる。

 朝も夜もサッカーのことしか考えていなかった自分――、あれだけ好きだったサッカー――。だが、その毎日蹴っていたボールを見ることすらが今は辛い・・。

「何で、こんなんなっちまったんだよ」 

 純は自分の今目の前にある現実に愕然とする。しかし、その現実が、容赦なく純に重くのしかかり、しかし、それを受け入れることはできず、純の目の前は真っ暗な奈落に落ちていくように、沈んでいった。

   

「あいつも終わったな」

 二年になっても何も変わらぬ日々が続く中、いつしか、周囲で、誰ともなしに、日明を見て呟くようになっていた。

 日明は、気づけば以前のあの輝かしかった頃の自信も輝きも完全に失っていた。別人のように、小さく、卑屈に、怯えるように、隠れるように学校の中で存在していた。いや、存在すらしていなかった。事故、隆史の死、自責の念、学校や部でのいじめや疎外、そんな中で徐々に自信や人格を削られ、かつての日明という人間そのものが、もうそこにはいなかった。

 そんな中、今年、高津という今年三年の部員の弟が入部して来ていた。中学生年代で日本代表に選ばれたという地元の逸材だった。そんな選手がこの東岡第三に入部して来てくれたことに、楢井は小躍りするほど喜んだ。そして、そのことによって、日明の存在は楢井の中で薄れていった。

「もう、高津弟がいるからな」

「あいつももう、いらないだろう」

 部内でも、日明を見て、そんなことが囁き交わされるようになっていた。

「あいつがいれば十分だ」

 高津のプレーを見て、そう呟く楢井の言葉を何人もの部員が聞いた。実際、楢井はもう日明のことなど忘れているかのように高津弟にのめり込んでいた。そして、楢井の期待通り、入部してすぐ、一年の段階で早速レギュラーで起用された高津弟は、試合で結果を出していく。

 その姿に楢井はさらに喜びを爆発させる。

「・・・」

 完全に干された状態の日明自身、出口のないそんな日々に心がくじけかけていた。サッカーへの情熱があるのかないのか、自分でも分からなくなっていた。気分もどこか抑鬱的で、ただ歩く一歩一歩が、鉛の足枷をつけられているかのように重かった。なんでもない、そんなただ歩くということが、堪らなく重く辛かった。

「やめちまおうかな」

 日明はふとそんなことを考えるようになっていた。何もかも、サッカーも学校もすべてをやめて、どこか自由に生きる道を気ままに歩く。そんな人生を現実逃避的に日明は夢想し始めていた。

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