第3話 第二回一族会議 ランハート視点

 第二回一族会議にはソフィー嬢も参加された。


「宜しくお願い致します」と、一族会議の前にソフィー嬢は挨拶をされたが、ソフィー嬢の礼に皆見惚れ、一族一同、あまりの美しさに戸惑っている様だった。


「では、おじい様。私の方から本日の会議の議題、ソフィー嬢とランハートの今後について、説明させて頂きますわ。まずはこちらをご覧ください」


 義姉様はそう言うと、資料を皆に配った。


「一枚目はソフィーさんとランハートの国民のイメージですわ。一月程かけて約200人にアンケートを取りました。王都、各領地、場所もバラバラ、また性別、年齢も違いますわ。細かい内訳は資料で確認されて下さい。回答の多くが、ソフィー嬢に見染て貰った運のいい男、と言うのがランハートのイメージですわね。そしてソフィーさんのイメージは皆さんご存じの通りですので割愛しますわ」


 では次のページへ、と義姉様が言われページをめくる。


「二枚目は今後の展望ですわ。貴族の多くの者が二人は上手くいかないだろうと思っています。祝福はしたいが、現実は甘くはない。多くの理由が金銭ですわ。裕福な侯爵家から子爵のランハートに嫁ぐのですもの。過半数以上が三年以内に婚約破棄、もしくは離縁と見ています。一時の愛は金銭の前に冷めてしまうだろうというのが、多くの貴族の本音の様ですね。ところが平民は二人が上手くいくと思っていますわ。平民はこの婚約を物語の様にとらえているようです。そこで次の三枚目をご覧下さい」


 皆が資料をめくっていく。


「ここ最近、わが領地の特産品のジャムを子爵家に販売致しました。他にも酢、果実酒等も販売する予定です。子爵家は叔父上了解の下会社を設立致しまして王都にて店を出しています。S・クランという名前の店ですわ。Sはソフィー嬢のSから取りましたわ。安易な方が皆覚えやすい物です。最初の会社設立の為の資本金はソフィーさんが出されています。クレメント家からは出資金も含め一ルナも頂いていません。また、わがチェリット家からもジャムの融通は致しましたが金銭は出資致してません」


 会社についての概要は次のページをご覧ください、と、義姉様が言い、皆がページをめくる。


「今は、主に我が家からの特産のジャムを王都で販売しています。今後はクラン家の亡くなった伯母様の親戚の方と契約を結べており、そちらの特産品のワインを販売予定です。また、来月には叔母様のミレー伯爵の領地のお茶を販売致します。現在、ソフィーさんには広告塔になって頂いています。今は珍しさもあり、設立したばかりですが大きな利益を上げています。ここ三ヵ月の利益をご覧ください。そして、準成人を迎えているランハートは、この会社の社長になっています。叔父上は後見人兼取締役、ソフィーさんには経理を任せています」


 皆が利益を見てぎょっとしている。


「この会社は我が領地の特産品を王都で委託販売を主としています。今後は商品を増やしていく予定です。新会社としてのネームバリューもソフィー嬢の専属モデルのおかげで申し分なく、うちの領地の物を売るという事で営業の必要もありませんでした。その為、利益を上げる事が容易だったようです。そして、肝心なのがクラン家が子爵と言う事。クラン家は領地も無く、家格は子爵、国に納める税も伯爵家に比べ大幅に減らされています。少々利益の高い会社を設立しても国に納める税は伯爵家が会社を作るよりも割が良いのです」


 では、次のページです、と義姉様は言われ、皆は黙ってページをめくる。


「そして、もう一つの商品の栞です。これはソフィー嬢が選ばれ、古典文学の教授監修の元、愛の詩が書かれた物を書いております。家族愛、友愛、純愛、悲恋等多くのパターンを用意しています。共通点は愛。古き良き文化を今一度見直すのです。若者には珍しく、おじい様世代には懐かしく思われる方もいらっしゃるでしょう。教授に聞いた所、おじい様達が若い頃、古典文学の物語が流行った事があるそうですね?歴史は繰り返されます、また愛の歌はどの世代にも受けが良い物です」


 栞の見本を見ておじい様が頷いている。


「甘いジャム、お茶、酢、果実酒、ワイン、そして栞。これで連想するものは、お茶会、又はサロンです。貴婦人達の贈り物に。家族、友人、または夫婦で一緒に過ごす時間を大切に、と店では売り出しています。そして、子爵家が作った店と言うのが裕福な平民には入りやすい店になります。これが伯爵、侯爵家であれば、貴族限定の店になる事でしょう。子爵家と言う事で客層が一気に広がるのです」


義姉様は息継ぎをゆっくりとした。


「そして最後のページです」


 皆がページをめくり、はっと息を呑んだ。


「こ、これは!」


 おじい様が唸られる。


「そうです、ランハートとソフィー嬢の愛の物語を出版します。作者は私が。ソフィー嬢に監修して貰います。民衆を味方につけるのです。そして、ランハートに富とソフィー嬢の愛を。ソフィー嬢がいつまでも美しくある事が皆の望み、金銭が無くて夫婦生活が無理と言うならば夫婦で稼げば良いのです。ランハートは理解のある夫、二人は愛し合う理想の夫婦、そしてランハートは良き夫の象徴となるのです」


 だん!とおじい様がこぶしを降ろされた。


「良い!良いぞ!頭を使う所が我が一族らしい!金儲け、結構じゃないか。今まで勉学ばかりであったからな。ここらで一旗揚げようぞ!」


 兄上も頷いた。


「うん、この会社は、わが領地にとっても良い事なんだ。取引先が安心出来る事は重要だしね。そしてクラン家の会社が単独で設立したのが良いね。クレメント家と離している事も平民も貴族にとっても良いんじゃないかな?ランハートには申し訳ないがリスクは小さくしたいからね。まあ、そうは言ってもソフィー嬢のバックにはクレメント家があると皆は思うが、そこは想像だけで使わせて頂こう。ミレー伯爵も参加されるのなら、ますます会社は忙しくなるね。ただ、本が出版されると注目は今の比じゃないだろう?二人はいいのかい?」


「兄上、元より覚悟の上です。何も恥ずかしい事はしていません。私は全力でソフィー嬢をお守りします。その上で金銭が必要なら稼ぎます。王宮文官も目指します。ソフィー嬢の夫として子爵位を譲り受けるのなら叔父上にも恥ずかしくないよう、努力を怠る事無く致します」


 だん!とおじい様がこぶしを降ろされた!


「よく言った!!我が一族総出で国中の貴族の期待を裏切ろうではないか!!ランハートとソフィー嬢が理想の夫婦となるのだ!」


 義姉様が頷き、「ソフィーさん、貴女からも一言どうぞ」と言われた。


「この度は私の我儘で、皆様にご迷惑をお掛けして申し訳ありません。しかし、私はランハート様の傍で一生を添い遂げたいと願ってしまったのです。私の全てでランハート様を支えます。子爵家を繁栄させ、伯爵家にも私が嫁いだ事で迷惑をお掛けしないように努力致します。どうか、今後も末永く宜しくお願いします」


 ソフィー嬢は優雅に、華麗に礼をした。


「「ソフィーさん!!!」」叔母と母はソフィーさんの手を取り、目に涙を浮かべている。


「ランハートは何があっても貴女に捨てられないように頑張るでしょう。私達もソフィーさんを支えるわ。解らない事は聞いて頂戴。慣れない事も多いでしょうが、一緒に頑張りましょう、国一番の夫婦になるのよ!!」


 母上は鼻息を荒くして話した。


「そうよ!!ミレー家もこの戦いに参加させて貰うわ!ちゃんと儲からせて貰うわよ!夫の両親も、領地の民もソフィーさんとランハートを応援しているわ!地味男を流行らせるのよ!!落ち着いた男の方が美しい令嬢を幸せに出来ると皆に分からせるのよ!!いいえ、男だけじゃないわ、地味と言われる令嬢達の希望にもなるはずよ。地味には地味の良さがあると皆に広く知らしめるのよ!!我が一族、皆で幸せになれるわ!!」


 叔母も目を血走らせながら話す。


 ソフィー嬢は頬を赤らめて、頬に手を置いた。


「有難うございます。とても嬉しいですわ。でも、ランハート様の良さが皆に知られては、私、心配で眠れませんわ」


 ほぅっと溜息を吐きながら話すソフィー嬢におじい様が胸を押さえられた。


「ぐ!!この年になってこんなに可愛い孫が出来るとは!!良いか!!皆で一丸となってこの度の婚約を成功させるのだ!!」


 義姉様が、グラスを出し、皆に領地の果実酒を注いだ。


「では皆様、ランハートとソフィー嬢の婚約、又我が一族の繁栄を祈りましょう、おじい様、宜しくお願い致します」

「うむ、ソフィー嬢と言う女神を我が一族に、そして国一番の地味男ランハートに乾杯!!」

「「「「「「乾杯!!!!」」」」」


 こうして、第二回一族会議は幕を閉じ、義姉様と、ソフィー嬢を中心に我が一族は動き出して行く。


 翌年、結婚式の日取りが決まった頃、義姉様が出版した「女神が愛した地味男」は、王女が隣国の王女達に紹介した事から三カ国でベストセラーになり、俺は名実共に三国一の地味男となった。


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