美しい令嬢の心の内側はポーカーフェイスで隠します

砂糖 あられ

1章 美しい令嬢は貴方に全てを捧げます

第1話 私の体を巡るもの

 ブロンドの美しい髪を持ち、まるでアメジストの様だと言われる美しい紫色の瞳を持つ令嬢、ソフィー・フェレメレン。


 気品があり、美しい姿で令息のみならず、令嬢からの人気も高い。ここ王立ホーソン学園で学生達の憧れの存在として皆からの視線を奪っている。


 その憧れの存在ソフィーは、図書室の窓際の席で日の光を浴びながらペンをノートに走らせていた。 時折首を傾げ、ゆっくりと髪をかき上げる。その姿を遠巻きに見ている令嬢、令息達。ソフィーの吐く息まで美しいと、皆も同じように息を吐く。


「はあ。ソフィー様。今日も美しいわ」

「本当。まるで氷の精霊の様」

「いえ、気高い白百合の様ですわ」


 令嬢達が窓際に座りノートを開いて勉強しているソフィーを見て、ほぅっ、と、うっとりする。


「美しい上に勤勉であるなんて。私も頑張らないと」

「あら。でも、学期末試験までまだ日にちはあってよ?」

「ええそうね。でも、ソフィー様を見ていると私も頑張らないとと、思ってしまうの。努力を怠らない姿も素敵だわ」


 令嬢達は、はぁっと溜息をつき、そうねお互い頑張りましょう、と勉強の準備をして教室へと戻っていく。


 噂をされているソフィーの耳には何も届いてはいない。これっぽっちも届いてない。なぜなら、気品があり美しいと評判の令嬢、ソフィーの瞳には一人の令息に釘付けだったからだ。


 窓の外をチラリと眺め、ソフィーは瞳を伏せ小さく息を吐く。


 ソフィーを見ていた令息達が息を呑む。


 中には胸を押さえる者、鼻を押さえる者、天を仰ぎ祈りを捧げる者もいた。


 もちろんソフィーにはそんな様子も気づいていない。


 気付くはずもない。


 ソフィーは一人の男子生徒しか興味がなかったからだ。




 **************



(はぁ。今日も素敵だわ)


 私はふぅっと溜息をつき、窓から麗しいランハート様を眺めた。


(暗闇では漆黒に見え、太陽の下では紺色に見える一度で二度美味しい美しい髪。瞳も落ち着いた暗い紺色で聡明さを隠せない。顔立ちは穏やかで周りに安寧をもたらす・・・。ああ!!、こんな完璧な人がいるのかしら。いやいない。いてたまるものですか!!唯一無二。完全完璧な存在。それがランハート様よ!!)


 ペンに力が入り、ミシリと音をたてる。


(いけないいけない。落ち着いて。私ごときがランハート様から百メートルも離れていない場所で空気を乱してはいけないわ。この乱した空気が巡り巡ってランハート様の元に届くかもしれないのだもの)


 私は窓からゆっくりと目を離し、ノートに走らせた字を眺める。


(神々しくも美しいランハート様はどんな言葉でも表現する事は出来ないわ。顔立ちの美しさだけでなく、内面の知性も溢れ出ているもの。それでもこの私の気持ちを出しておかないと、溢れるシャラワイ火山の様に、流れ落ちるワンガーの滝の様に、聳え立つココロポポの山脈の様に、私の気持ちは噴火し、濁流になり、雪崩を起こしてしまう事でしょう)


 ふぅっともう一度溜息をつくと、ゆっくりとノートに想いをぶつけた。


 頬を押え、考える。


(うん?ランハート様が吐き出された空気。それも巡り巡って、私の元にも届くのかしら??なんという事なの。という事は、私の体はランハート様によって作られていると言っても過言でもないわ。ああ。どうしたらいいのかしら)


 息を吸い、自分の体内に取り込む。ありがたやありがたやと東洋の呪文も唱える。


(ああ。どれ程の言葉であればランハート様に似合うのかしら?)


 ノートを前にし、思案していると窓の外から声が聞こえた。



「ランハート。今度お茶会に行くって聞いたけど、実際は顔合わせなんだろ?いよいよ婚約か?」

「いや。母親達がそう言ってるだけでね。相手の令嬢は乗り気ではない御様子だ」



(天使の声?いえ、ランハート様の声だわ・・・。なんですって!!婚約ですって?まさかそんな)



「そうなのか?お前はどうなんだ。相手のご令嬢は可愛いんだろ?」

「さあどうかな。俺は地味だしね。俺は、優しく穏やかに一緒に過ごせるような子がいいかな」

「なんだよ。こう、ないのか。タイプとか」



(!!どこのどなたかご存じないけど、ランハート様のご友人A様!!もっと聞き出すのよ!!ランハート様のタイプ!!具体的に!!カモン!!)



「モーガン嬢やクレメント嬢なんか可愛いよな。お前はどうだ」



(友人A様!!余計な令嬢を勧めないで!!可愛いけど!!確かにモーガン嬢もクレメント嬢も可愛いけど!!タイプよタイプ!タイプを聞き出しなさい!!)



「んー。そうだなあ、優しい人かなあ」

「なんだよそれ。フェレメレン嬢なんて綺麗だよなあ」



(え、私?ナイスよ、友人A様!!ランハート様!!私はどう!!??いつでもその胸に飛び込めますわ!ええ、今すぐにでも準備万端ですわ!!ホップスッテプジャンプですわ!!)



「綺麗だけど高値の花だよ。綺麗で近寄りがたいな」

「ま、俺らにはそうだな。お、もうすぐ予鈴か。行くか」


 二人は校舎の方に行った。



(友人A様・・・。そうだな、じゃないわよ!!そこはもっと私を推しなさいよ!!近寄りがたい・・・。え・・・。私、無しってこと?・・・。ああ。そんな。天使より尊いランハート様には釣り合う事等不可能だわ・・・。一体どうしろっていうの?)


 私はブロンドの髪をゆっくりとかき上げ、ほろりと流れ出しそうになった涙で潤む紫水晶の瞳に決意をにじませる。


(負けませんわ。無理でもなんでも、この想いをお伝えしてみせますわ!婚約なんてさせませんわ!!)


 その為にもランハート様に送る素晴らしい文章を考えなくては。私はゆっくりと頭を傾けながらノートに想いを綴っていく。


 涙で潤んだ瞳でゆっくりと図書室を見回したときに、バタバタ、うっ。等の声が聞こえるが。ソフィーは気にも留めない。


 ソフィーの頭の中には(ソフィー限定麗しの貴公子)、ランハートの事しかないからだ。

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