第23話 贈られた言葉
「天音っ!」
いろんな声が重なる中、俺は目を覚ます。
目の前には父や母、秀の顔が見えたが、一番見たかった姿が見えない事に、また涙が溢れる。
「貴志くんは・・・?」
小さな声で問いかけると、秀が俺の頭を撫でながら微笑む。
「今、状態を収集するために実家に戻っている。大丈夫だ」
「そう・・・ここは?」
「貴志くんの家よ」
母が目に涙を浮かべながら、心配そうに俺の顔を覗き込む。
「貴志くんから天音が倒れたと連絡をもらってね。ここで医者に診てもらうから、秀くんとここに向かうように言われたの」
「家にも報道陣が沢山来ていて、ここに身を隠す事にしたんだ」
父が胸元をポンポン叩きながら、安心させるかの様に声をかけた。
それから、秀が今の状態を説明し始めた。
どうやら学園祭で、他の生徒が貴志の写真を勝手に撮ってネットに載せた事で、記者が嗅ぎつけ学校で見張っていたらしい。
あの時聞こえた音は、きっと待ち構えていた記者のカメラ音だろう。
俺が貴志の車に乗り込み、その後を追った先で貴志に手を引かれレストランに入った事で、核心した記者がネットに上げたようだった。
天音が寝ている間、貴志と岬から何度も謝罪を受けたと聞いた。
いつも張り付いていた護衛も、今日は一般の学校へ行くからと連れておらず、張り込んでいた記者に気付かなかったと・・・。
そして、南條カンパニーでは記事の管理はしているが、その記者が独断でネットに上げていたのも、未然に防げなかった要因だったらしい。
「天音は今から携帯もテレビも禁止だ。貴志からの連絡は全て俺の所に入るようになっている。お前は貴志を信じて、何も見聞きせずにここで家族と貴志を待つんだ」
秀の言葉に、今、ネット上で何が囁かれているのか安易に想像が付き、俺は静かに頷いた。
しばらく部屋で母達と会話をしていると、部屋の外にいた秀が携帯を握りしめ、リビングに来るように言われ、俺達はリビングへと移動する。
すると、秀がテレビを付ける。
そこに映し出されたのは貴志と、貴志のご両親、そのサイドには見た事ない男性が2人立っていた。
どう見ても記者会見だとわかる状況に、俺はまた鼓動が早くなる。
席に着くなり口を開いたのは貴志の父親だった。
「この度は世間を騒がせて大変申し訳ございません。いずれ発表する予定ではありましたが、息子がまだ年齢的に幼い為、時期が来るまで控えるつもりでした。
記事にあった事は事実です。私の息子と記事に載った男性とは婚約しています。
互いのご家族ともすでに対面しており、双方、合意した上での婚約になります。
皆様が懸念している息子の年齢もあり、2人きりで会う事はしていません。
常に誰かが一緒にいて、念の為に2人には専門病院での検査も受けさせ、互いが傷付く事がないよう万全な体制で互いの家族、そして2人の絆を深めています。
この場に相手が同席していないのは、相手の方もまた未成年であり一般の方だからです。
今回の件で、すでにあちらの家族にはご迷惑がかかっています。
私達夫婦はすでに相手のご両親も、相手の方も家族だと思っています。それと、相手の方の大事な友人で、息子の事を大切に思ってくれる友人も家族の対象です。
ですので、家族を守るためなら私達は全総力を上げて守るつもりでいるので、どうか一線を超える事ないよう、そして若い2人がこれ以上傷付かない様、配慮していただきたい」
そう言い終えると、貴志のご両親と貴志は頭を下げた。
その後の質疑などはサイドにいた、顧問弁護士が受け答えをする。
堂々した貴志達の姿に胸が熱くなる。
しばらく続いた記者会見も終盤になり、最後に貴志からの言葉が欲しいと言う記者に答え為に、貴志がマイクを持つ。
その姿に俺は心配でたまらなくなり、涙が溢れる。
それを不思議と貴志が感じ取っているかのように、カメラに向かっていつも微笑みを向けた。
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