第16話 夏の終わり

夏の終わりが近づいて来る・・・本当にあっと言う間だった。

ほとんどが貴志の家に入り浸りの毎日だったが、それでも夏の思い出にと貴志は忙しい合間を縫って旅行まで連れてってくれた。

貴志がくれる愛情が嬉しかった。

小さいながらも力強く引っ張ってくれる貴志の手。

時折、子供らしい姿ではしゃぎ笑うけど、俺に向ける笑顔はどれも愛に満ちた大人さながらの笑顔だった。

鈍感な俺でもわかるくらい、その笑顔も俺を見つめる目も全てが俺を好きだと言ってくれている。

それが心底嬉しかった。


「あぁ・・・明日から学校か・・・」

庭先でアイスを食べながら呟く秀に、俺は苦笑いをする。

今日は貴志も仕事で来れず、久しぶりにのんびり俺の家で秀と過ごしていた。

「夏休み明けたら一気に受験モードだな」

「そうだね・・・まだまだ学校行事はあるけど、雰囲気的にはそれ一色だろうね」

「天音、もう決めたのか?」

秀の問いかけに俺は小さく頷く。

「俺、花屋になりたい」

「花屋?」

「うん。ほら、貴志がいつも花をくれるでしょ?その花にはいつも花言葉が込められてて、いつも貰うたびに調べてたんだ。元々花は嫌いじゃないからさ、調べていくうちにだんだん興味が湧いてきちゃって・・・」

「なるほどね・・・・いいんじゃないか?何か、天音にぴったりな気がする」

秀は食べ終えたアイスの棒をプラプラと動かしながら、俺にニカっと微笑む。

俺は照れながらそうかな?と微笑み返す。

「それでね、高校卒業したら進学しないで、花屋さんでバイトしながら色んな資格を取ろうと思ってる」

「そうか・・・」

「色々調べたんだ。花屋になるために持っておいた方がいい資格とか・・・勉強は苦手だけど、きっと頑張れると思う。それで、いつか自分の店を持つ時、花好きなお母さんと一緒に働けたらなって・・・。お母さんもオメガだから、今と違う昔のオメガ差別で進学や仕事に凄く苦労してたんだって。俺が一緒に花屋をしたいって言ったら、お母さんも一緒に勉強するって言って喜んでくれたんだ」

「天音らしいな。貴志には話したのか?」

秀の言葉に俺は俯き、まだと答えた。


貴志とは毎日連絡を取っているが、最後に会ったのはもう二週間も近く前だ。

電話でも話せる内容だけど、出来れば直接会って話したい。

俺が将来の事で悩んでいると言ったあの日以来、貴志は言葉通り俺の好きな事を見つけようといろんな所に連れってくれた。

デートだと言っていたけど、美術館、工房、建築物が綺麗だと有名な建物見学、牧場にも行ったし、ちょっとした登山にキャンプ、予定外だったけど農業経験もできた。

夏休みという一ヶ月で、貴志にとっては多忙なスケジュールだったにも関わらず、疲れた顔もせずに付き合ってくれた。

でも、あちこち行ったけど、一番目に止まるのはその場所に咲く花だった。

とても可憐で、綺麗で、それでいて誇り高く咲き誇っている。

オメガである事で自信を持てない僕には、それがとても魅了される姿だった。


「天音、俺、貴志がお前を見つけてくれて良かったと思ってる」

「え・・・?」

「俺達の絆は切れる事はない。それは保証する。でも、これからはずっと側にはいてやれない。それがとても心配だった」

「秀・・・・」

「天音ほど優しくて、いつも一所懸命でいい男はいないのに、お前はいつも自信なさげで、それでいて心配性だ。でも、それもオメガであるが故だとも理解している。怖いのもわかる。でも、それに囚われて下を向いて生きていって欲しくないんだ」

秀の言葉に俺は俯く。

「ほら、また下を向く」

秀は笑いながら俺の頭に手を置いた。

「天音、お前の人生はお前が動かしていかないといけないんだ。辛くて怖い時は誰かに頼ってもいいし、逃げたっていい。だけど、しっかり前を向いて歩くんだ。下ばかり向いていると、見えるはずの景色も見えない」

俺は秀の言葉に、ゆっくりと顔をあげる。

「夢も持てた。俺という心強い親友もいる。あとは貴志に沢山愛情を貰え。人は愛情を沢山もらう事が一番の自信に繋がるんだ。来年の春が来る頃には、貴志はしばらくいなくなる。だからこそ、沢山愛されて、素直に思っている事を話し合って、絆を強くしておけ。俺はいつでも付き合うからさ」

乱暴に俺の頭を撫でる秀の言葉に、優しさに目頭も胸も熱くなる。

俺はたまらなくなって秀に抱きつき、ありがとうと呟いた。

秀は黙ったまま俺の背中を撫で続けた。


その直後、いきなり現れた貴志に「浮気だ」と叫ばれるまで・・・


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