俺は犯罪者予備軍

颯風 こゆき

第1話 犯罪者になりたくない

運命の番・・・それは、気持ちより先に本能的に惹かれ、互いを強く求めてしまう。そして別名(魂の番)とも呼ばれる・・・・のだが、俺は今、とてつもなく困惑している。

それというのも、学校の校門を出たばかりの俺の目の前に、薔薇の花束を持った少年が膝をついて求愛しているのだ。

「君は俺の運命の番だ。俺と結婚しろ」

どう見ても小学生の少年が俺様口調で、不敵な笑みを浮かべている。

友人とただただ呆然とその子供を見ていると、子供がチッと舌打ちをしながら立ち上がる。

「隣にいるのは君の何だ?」

突然の質問に俺は我に帰り、しどろもどろになりながら口を開く。

「ゆ、友人・・・です」

「そうか。ならば友人とやら、俺に譲ってくれないか?」

鋭い視線を俺の友人に向けながら問いかけると、友人もしどろもどろになりながら答える。

「な、何を譲るんですか?」

「貴方の目は節穴か?俺は今、こちらに結婚を申し込んでいるのだ。俺の番となる人との時間を譲ってくれないかと聞いている」

その言葉に俺達は顔を見合わせる。それから視線を子供に移すと、俺は口を開く。

「あの・・・何かの間違いではないですか?俺には運命なんて感じませんが・・?」

俺の言葉に眉を上げると、少し睨んだ目つきで俺を見上げてくる。

「君はオメガだろ?俺の匂いがわからないのか?」

「えっと、俺は確かにオメガですが、劣性なので発情もまだですし、匂いは何となくわかる程度なので、あなたが運命かどうかは・・・」

俺の答えが納得いかなかったのか更に眉を顰めるが、軽くため息を吐くと俺の方へ歩み寄り、手を取ると昔の貴族かなんかのように、手の甲にキスをする。

「君は間違いなく俺の番となるべき人だ。劣性だろうが何だろうが、君は必ずそれに気付くはずだ。まぁ、その時まで俺が口説き落としてやるがな」

そう言ってニヤリと笑うと、花束を俺に押し付ける。

「そういう事なら今日は大人しく帰ろう。友人よ、邪魔をしたな。そうだ、私の名は南條ナンジョウ 貴志タカシ。年齢はまだ10と若いが、なんら問題はない。また、会いに来るぞ。深見フカミ 天音アマネくん」

貴志と名乗るその少年はウィンクをすると、近くに停めてあった黒いベンツに乗り込んで去っていった。


「ぶははは・・・」

少年が去った後、隣にいた友人の里見サトミ シュウが腹を抱えて笑い出す。

俺は花束を抱えながら、周りに視線に顔を赤くして俯きながら歩き出す。

「秀、やめろっ。たださえ注目浴びて恥ずかしいのに、大きな声で笑うな」

「だって・・だってよ。10歳の子に口説き落とすとか言われてんだぜ?」

俺は居た堪れなくなって、秀を置き去りにして早足でその場から離れる。

その後をなおも笑いながら秀が駆け寄ってくる。

「なぁ、いいんじゃないか?南條ってあれだろ?超有名な南條カンパニー。そこの息子なら玉の輿じゃねぇか」

「やめろっ!いくつ違うと思ってるんだ。俺達は来年高校卒業する歳なんだぞ!?子供相手に恋愛ができるか!?」

「いいじゃねぇか。恋愛は自由だし、あの子が大きくなるまで婚約でもしてキープしたらどうだ?」

「バカ言うな!いいか?俺が20歳を過ぎた時、あの子はまだ12歳だ。そんな子と付き合ってみろ。未成年保護法で俺が捕まるんだぞ」

「それもそうか・・・12じゃ、親同士が認め合っても難しいな。お前が発情なんかしちゃって、あの子に手を出したらそれでこそ、犯罪だ」

秀のその言葉に背筋が凍りつく。俺は身震いをすると、秀に視線を向ける。

「秀、あの子、また来るかな?どうやったら諦めてくれる?」

「あの様子だと来るだろ。お子様がどこまで本気か知らないが、犯罪はごめんだとはっきり言えば、わかってくれるんじゃね?」

「そ・・・そうかな・・・?」

「まぁ、俺はベータだからわからんが、運命の番ってのは本能で嗅ぎ分けるんだろ?あの子がそう言ってるんだったら、諦めるのは難しいかもな」

「俺だって運命とか本能とかわかんないよ。あぁ・・俺、人生詰んだかな・・」

「俺も大事な幼馴染に犯罪を犯して欲しくないから、なるべくは手助けしやるが、あの子の本気度によっては、お前も年上らしくきちんとした態度で対応するんだぞ」

「わかったよ・・・」

俺は両手に抱えた薔薇にため息を吐きながら、家路へと足を進めた。

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