嘘のような本当の話

 え?


 あら?あらあら? おかしいですわね。ここには私以外はいないはずなのですが。


 外からの声ではなさそうでしたし……。一体。

 それに私、口にだしては考えてはいないはずですのに私に言ってるようにも聞こえました。これはどういうことです。

(すまない)

 あら、また声がします。


 でも皆様。私気付いたのですがこの声は私の耳から聞こえているわけではないようですの。中から直接します。

(俺はお前の中にいるからな)

 中にどう言うことですの?


(青柳正だと言えば多少は分かるか)

 まあ、青柳正と言えば私が入れ替ってしまっていた……。そう言えば私は寝込んでいたと言うわけですから入れ替わっていた訳ではないのですね。

(ああ、俺はあんたが動かしてた俺の体の中でずっと寝ていた。たまに見ていたんだが……、お前がどこかにふよふよ飛んで行くのでついてきたんだ。

 それで今はお前の中にいる)

 なるほどですわって、私がいなくなって元の体に戻れるのに戻らなかったんですか。


(あんな体置いていかれてもどうしていいか分からないんだよ!! 人の体、化け物にしやがって)

 まあ、あんな素敵な筋肉をなんて言い様ですの。だからもやしだったのですよ。

(うるせ。もやしだからあの肉体どうしようもできないんだ。母さんも筋肉信者になってるし、群岡だって……)

 群岡? ああ、ゴリ友のことですわね。心配しなくとも筋肉の維持の仕方であれば

(誰もそんな心配してない!!

 人の友人ゴリラにして。あいつとも顔あわせられないんだよ)

 あらあら、それは困りましたね。


(いや、もうここまで来たら会うこともないだろうからいいんだがな。

 それよりお前、本当に筋肉でどうにかするつもりなのか。その……俺も少しだけゲームは見たが)

 もちろんですとも。


 ヒロイン含めて全員教育的指導で殴って解決ですわ。まあ、貴方の言いたいことも多少分かりますのですが、彼らのために言葉をかけてあげる優しさを私が持ちあわせておりませんの。

 だって見ました、あの王子ルート。


 自分を王子としてしか見てくれるものしかいなかった。父と母も王子としてでしか見てくれず、一人の子供として愛してくれることはなかった。周りの全員、俺を俺とさせてくれない。俺はなんなんだって……。

 ざけんじゃないわ!!


 お前だって私のことずっと婚約者としか見てこなかったくせに!! 私は見てましたね。あの方が花や小さな命を愛でる心優しき方なんだと言うこと。守られるより守りたくて剣を極めたかったこと。民族学に興味がおありなこと。全部見てたのにこいつもそこらの奴と一緒と勝手に決めつけたのはあの方の方でしてよ!

 何より腹立ったのはそんな私のことをヒロインに言われて気付いたこと、何がそうか。俺は一人じゃなかったのかよ。何がお前には悪いことしたと思う。だがヒロインを傷付けたことは許せない。お前は最低な人だ! よ!!

 お前の方がずっとずっと最低野郎だったろうが!!

 このうわきもの〜〜!!


(おお……。すごい叫びだな。

 だが、なるほど。それは確かに一々々声をかけてやりたくはないな。だからって金員殴り倒していくのか)

 ええ、そうですとも。


 私の筋肉の前に全員ひれ伏せさせるのです。

 オッホホ。


 どうせ、全員王子と同じような奴らばかり。自分が自分がで悲劇のヒロイン気取り、少しでも自分でその状況を改善しようとしたこともない。私は婚約が決まり私の未来が確定した時、少しでも前向きにとらえられるよう努力しましたし、王子のことを見て、あの人の好きになれる所を探して好きになりましたわ。

 そんなこともしない奴など殴ってやるだけでいいのです。

 どうせヒロインがよちよちしてくださいますしね。


 聖女ヒロインがその優しさでみんなに愛されゲーとか本当クソゲー以外の何物でもありませんね。その物語の世界が自分の国だなんて考えただけで頭痛がします

(大変だな……。


 …………すまん)

 あら? 何がですか? 謝られるようなことありました。


(その俺も似たようなもので、しかもおしつけてしまったから……) 

 そんなことですの。別に気にしておりませんわ。ただいじめられていただけなら貴方にも腹がたったかもしれませんが、ちゃんと証拠の画像や動画を残していつでも反撃できるようしておりましたし、それを今学校側に見せても退学になる可能性があるだけ。そうなっても他の学校に編入して、またのうのうと奴らは過ごす。

 それが嫌だからせめてもう少しでもダメージを与えられるよう奴らが希望の大学に受かったら、そこに送るつもりだったのでしょう。


 気が長すぎるのはお馬鹿なのかと思いましたけど、そう言った心づもりのあった貴方のことは嫌いではありません。

 いじめっ子達のことを書いたノートは読みごたえありましたし。見た目だけドーベルマンのチワワだとか、いじめる時だけチーターになるコアラだとか。色々書いてくれたおかけで調教するのにも役立ちましたからね。

 むしろ好ましいぶるいでしてよ。


 何で貴方が折れてしまったのか不思議なぐらいです。

(······色々あったんだ)

 あまり言いたくないのことですね。

 まあ、いいですわ。そう言えばまだちゃんと言っていませんでしたね。

 これからよろしくお願いいたしますわ。

(……ああ。……よろしく)


 あら。照れ屋ですね。可愛らしいですわ。

 さて、あいさつも終わりましたし、そろそろ行くとしますか。

(どこへ行くんだ)

 決まっていますわ。訓練場ですわ。


 私のこのか弱い乙女の体を鍛えあげなくてはなりません。めざすは世界一のゴリラでございましてよ。

(しまった。


 ゴリラ馬鹿についてきてもゴリラとなるだけだった!!

 このゴリラ!)

 褒め言葉でございましてよ〜〜!


 どうぞ私のことはクイーンウホット・ゴリラッシュとでもお呼びになってくださいまし。

(さいあくだ〜!)

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