行き先

行き先【前編】



「すみません。お城へはどう行けば良いのでしょう?」


 数日後、お城を出発し、港へ向かっていた姫様は、旅人らしき人物に声を掛けられました。


「このあたりは似たような工場ばかりですものね。口頭で説明してもわかりにくいでしょうから、案内しましょうか?」


 彼女の目指す方向からやってきたその青年は簡素な服に身を包んでいましたが、隠し切れない気品を纏っています。


「こちらとしてはとても有り難いのですが、お時間は大丈夫でしょうか?」


「ええ。急ぐものでもありませんし、来た道を戻るだけですもの」


 姫様の持ち物はお金と少しの着替えだけ。これから旅に出る人にはとても見えません。


「ありがとうございます。よろしくお願いいたします」


 そして、二人は並んで歩き出しました。

 

 

 

「お客様をお迎えするのはいつもわくわくしますね」


 来た道を引き返しながら、姫様が思ったままに言うと、途端に彼は声を潜めました。


「……もしや、王族の方でしょうか?」


「ええ、一応は。初めまして。トルテと申します。アッシュゴートへようこそ」

  

「姫様に道案内をさせてしまうとは大変なご無礼を……。城下にお住まいの方なのかと……」


 動きやすいようにラフな服装を選んだ事を思い出した姫様はくすくす笑います。


「お気になさらないでください。こんな恰好では、そう思われて当然でしょうから。あなたはどちらからお越しに?」

 

「申し遅れました。私はアッシュゴート国の港を出て、この海を三分の一ほど東に行った先にあるトーラス国の王子。名をグラセと申します」


 姫様とって彼の身分は意外なものではありませんでしたが、その国の名前を聞いて、こぼれ落ちそうなほどに目を丸くしました。


「そんなに遠いところから? ご足労いただき、ありがとうございます。本日はどういったご用件でいらっしゃったのでしょう?」


 トーラス国といえば、言わずと知れた美食大国です。姫様も修業の候補地として検討していました。


「はい。本日は、アッシュゴートのブレヴィティ産業と我が国の製菓技術を組み合わせて、よりブレヴィティの開発に貢献できないかと思い、馳せ参じた次第です」


 グラセ王子は少し含みのある言い方をしました。

 

「……本物に近い、というのは?」


 トルテ姫はすかさず聞き返します。

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